▼ ちょっとだけ
灰色の雲の下には重たい空気が蔓延する。
天気が急速に崩れ始め、野外で魔物を退治し終えたばかりの一行は大雨に見舞われた。
「落ちている葉や木の枝を集めるぞ。無駄話はそれからだ」
最年長者の言葉に全身びっしょりの仲間達は頷く。
リズ達は近くの洞窟に急いで駆け込み、濡れた体を暖めるため焚き火の材料を探し始めた。
どうにかかき集めたそれらに火を付け、円になって暖を取る。
「しかしマジで参ったな……」
「多分通り雨だからすぐに止むと思うよ」
「ならさっさと宿に移動してシャワー浴びたいぜ」
「とほほ」という効果音がバッチリ当てはまるスパーダ。
彼らは濡れた服を乾かすために衣服をロープに干し、女性陣は脱げるギリギリの範囲で。そして男性陣はコンウェイ以外上半身裸の状態で焚き火にあたっていた。
「あんたは脱がないの?」
「ボクはいいんだよ」
「イリア姉ちゃんしゃあないやん。ほら、コンウェイはおばちゃんやから」
飄々とするコンウェイにエルマーナが爆弾を落とす。
ぴきり、と空気が裂けた。本当に裂けるわけがないが、リズには確かにその音が聞こえたのだ。
「……エルマーナ。今なんて言ったの」
ひくひくと眉をつり上げるコンウェイ。
ただならぬ空気を感じたリズは、懲りずに再度地雷を踏もうとするエルマーナの口を両手で塞いだ。
彼女の判断にアンジュとリカルドが親指を立てる。
「ねぇリズさん。さっきとても不愉快な言葉が聞こえたと思ったんだけど、ボクの聞き間違いだったのかな?」
リズは彼の強制的な同意に必死に頷く。
怒り狂った彼がインディグネイションなんて唱えようものなら、パーティが全滅しかねない。リズは本気でそう思った。
しかしその気持ちは異世界人の彼女には届かなかったらしい。
「コンウェイ。エルこう言た。コンウェイはおば」
「うおっ!」
スパーダの機転により寸前のところでキュキュも口元を押さえられる。
更に余計な事を言い出しそうなコーダはイリアがやや強めに押さえた。苦しそうなうめき声はきっと気のせいではない。
「ね、ねぇコンウェイ。術をたくさん使って疲れたでしょ。レモングミあるけど食べる?」
「やれやれ。じゃあ頂こうかな」
何かを言いたげなコンウェイだったが、ルカから差し出されたグミをおとなしく口に入れる。
それを見た仲間達はホッと息を吐いた。
「……ん?」
しかしキュキュから手を離すスパーダはふと視線を感じ、その方向に目を向ける。
オレンジがかったピンクの瞳がこちらを見つめていた。
「リズ?」
「!」
名前を呼ばれたリズはハッと気付き、目を逸らす。
明らかに不自然な彼女の様子にスパーダは目を丸くするが、すぐににんまりと口角を上げた。
「もしかして、オレとキュキュがくっついてんの見て妬いたとか?」
リズはギクリと表情を強張らせる。
普段ならまだ平気だった。
しかし今、スパーダは上半身に衣服を纏っておらず、キュキュは相変わらず布の面積が少ない。
つまり肌と肌が多く密着している。それを見たリズは、複雑な気持ちになっていた。
「おーい」
「固まっちゃったわね」
イリアとアンジュの言葉がリズの耳には入ってこない。
スパーダに指摘され、モヤモヤとした想いが全身に駆けめぐった。
それは次第に頬を染め上げ、涙腺を刺激する。
「……っ」
「あうー。リズ泣きそう。ヘンな帽子、どう落とし前つける」
「オレのせいかよ!」
「え、違うの?」
キュキュとコンウェイの連携プレイに声を詰まらせるスパーダ。
二人に責められた彼は、リズに近づき隣に腰を下ろした。
「悪かったって」
「……」
「でもよぉ」
「……?」
「リズが嫉妬してくれたら、オレすげー嬉しいぜ?」
その一言でうつむいていたリズが顔を上げる。
しばらく視線を泳がせる彼女をにやにや顔で見ていたスパーダだが、ふと片手に熱を感じた。
「お?」
視線を向けるとリズが手を掴んでおり、スパーダの手のひらに何かを書こうとしている。
ためらう彼女だがとうとう意を決し、早急に指を動かし始めた。
「……」
手のひらには『ちょっとだけ、したかも』という文字。
スパーダは感情のまま、がばりとリズに抱きついた。
2012.05.10
『連載夢主でallスパーダ寄り甘』というリクエストを頂きました。
響香さま遅くなってしまい申し訳ありません! 大変お待たせしました。
ギャグちっくになったりスパーダが半裸だったりと、色々すみません。
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