眠たがりの尻尾
ゆっくりと、ぬるま湯につかっているときのようなどろどろとした夢の中の世界が、徐々に現実のものにすり代わっていく。それに釣られるようにゆっくりと瞼を持ち上げ、いつもの真っ白な天井を確認して、息を吐いた。
いつもの朝、いつもの目覚め。枕元でソニックが気持ちよさそうに寝返りを打つのも、いつもと同じ。
「ん……、……くー……。」
「……。」
いつもと同じじゃないのは、一つだけ。
一人用のシングルベッドに二人、さすがに窮屈なのか少し寝苦しそうに少し汗をかきながら、まだ規則的な寝息を立てる###の寝顔に一瞬呼吸が止まった。相変わらず男前な整った顔は睡眠中でも衰えることはなく、むしろ陶器のように美しい。惚れた弱みを差し引いても完璧すぎる寝顔に嫉妬して、悔しさに思わず背を向けた。
――と、同時に自分が下着一枚なことに気が付き、昨夜のことが一気にフラッシュバックして、顔がカッと熱を持つ。まるで童貞思考な自分の脳内に、思わず布団の上で頭を抱える。
「(あ〜、くそ……生娘じゃあるまいし……。)」
頬を撫でる手、首筋を辿る舌、汗と香水が混じった匂い、何度もレオ、と名前を呼ぶ愛おしげな声、繋がった時の熱。何度夜を共にしても慣れないあの感覚がじわじわと起きたばかりの記憶と体を埋め尽くして、絡まってくる。背中を嫌な汗がつたって、指先がじんと痺れるのが分かった。ちらりと視線を###に戻す。相変わらず綺麗な顔で寝たままだ、これじゃピロートークもできやしない。……そもそも、いつもそんな暇もないくらい攻めるのは###なのだけれど。
「……###ー……?」
そろ、と小声で名前を呼んで眠る###の頬に触れてみる。温かい温度に心臓が掴まれたみたいに高鳴って、……けれど、それでも開かない瞳がもどかしくなった。見たい、自分のような‘異形の瞳’とは違う、人間の瞳――###の瞳。
自分だけを映してくれる、その瞳を。
恐る恐る、その瞼に口づける。###がいつもしてくれるような、甘くて深い、耽美なキスではこれっぽちもないけれど。
「……っ……どした……?寝込みでも襲うか?」
「襲わないよ……。」
おはよう、と言うと、眠たそうに欠伸をしながら、おはよ、と返してくれて。じっと目を見つめる僕を不思議そうに見つめ返してくる、寝起きで潤んだレンズに映った自分の顔は、ひどくだらしなく緩みきっていて。
それを隠すように――今度は、唇を塞いだ。