アクマイザー

弟を食らう凶星


デフテロスが何を考えているのか判らなくなったのは、いつからだろう。
聖域に俺たちが見出されると同時に、デフテロスは凶星として仮面を被せられ、存在を禁じられた。
俺は大層怒ったが、弟は何も言わなかった。ずっと黙っていた。幼い子供が二人で生きていくためには理不尽な掟も受け入れるしかなく、次第に光と影の役割分担が当たり前になった。
差別による虐待を受けたときも、デフテロスはただ受け入れていた。俺の教官をしていた男などは特に弟を眼の敵にしていて、隙あらば亡き者にしようとしていたようだが、そんな時ですらデフテロスは黙って相手を睨むだけだった。
そのうちデフテロスは俺にも言葉少なになった。何も言わず、ただ背後からじっと俺を見ている。
俺の影であり2番目であることを、デフテロスは選んだのだろうか。
それは確かに生存すら許されない凶星よりは、二番目のほうがずっといい。栄えある黄金聖闘士の二番目《デフテロス》なら尚更だ。しかし、二番目は二番目でしかない。そんなことを受け入れられるものだろうか。力を持ちながら、一生を誰かの影として過ごして死んでいくなんて、我慢できるものなのだろうか。
デフテロスはこっそりと力を磨き続けている。死に物狂いで邁進し続ける俺と比較しても、ほとんど遜色ないほどに。しかし、影として生きるつもりならば、何の為に力を磨くのだ?
不安が増すにつれ、ますます考えていることが理解できなくなって、視線が疎ましくなる。
どこまでも俺を貫くあの視線。あれは本当に弟の視線なのか。俺の本当の弟はとっくに凶星に飲み込まれてしまっているのではないか。
デフテロスの姿をした凶星が、俺を追い詰める。

月日がたち、もう少しで教皇の座に手が届くというときになって、とある噂が耳に届いた。いわく、教皇は次の教皇として射手座を選んだというものだ。噂の出元は教皇付きの侍女たちからであり、信憑性に関してはほぼ確実といえる。
俺は初めて禁を侵してスターヒルへと登った。代々の教皇しか立ち入りの許されぬ星見の祭壇になら、何か状況を逆転させる情報が隠されているやもしれないと考えたからだ。
デフテロスはそんな場所にまで俺を追ってきた。
聖堂を荒らす俺へ『お前らしくない』だの『やめろ』だの今さら言っている。一体俺らしさとは何だ?何故やめなければならないのだ?影のくせに、弟の声で俺を宥めようとする。

『お前が必死に教皇を目指し続けたのは俺が一番分かってる』

そうだ、この時判ったのだ。やはりこいつは俺の弟なんかじゃない。
本物のデフテロスならば一緒に怒ってくれるはずだ。納得がいかないと疑問を口にしてくれるはずだ。何故この俺が教皇になれないのだと。
目の前のこの男は、俺の努力を分かっていると言った。にも拘らず、教皇の決定に異を唱えるわけでもなく、ただ受け入れる。きっとこいつにとっては、どんなに理不尽なことであろうと関係がないのだ。その理不尽が自分だけでなく他者をも飲み込み、目の前で押し潰そうとしても。
唯々諾々と見ているだけの、我のないただの人形。俺の大事な弟を奪った凶星。

(なんだ、この二番目は誰にでも従順なのか)

ならば俺が今から傀儡にしようとも、何も変わらないということだ。
この手から女神の血の入った小瓶を取り上げた二番目へ、俺は遠慮なく幻朧魔皇拳を撃った。

(2010/1/18)


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