アクマイザー

光の残骸


アスプロスは壊れてしまった。
姦計をもって教皇のセージを排除しようとしたものの、逆にアテナの盾によって邪悪を消し去られた兄さんには、何も残らなかった。かつての聡明さと強い意志に満ちていた瞳は濁り、歪んだ野望はなくなったものの、まともな人間としての形も失われてしまった。

処分(死刑の事だ)だけは請うて許しを貰い、一人では暮らせないであろう兄を連れて、俺はカノン島の村のはずれへ引きこもった。
邪悪が失われたせいか、兄さんにはかつての光が垣間見えた。ときおり笑うと、そこだけ輝くようだった。
でも俺に笑いかけることはない。俺を弟と認識もしていない。そういった人間としての判断能力も今はないのだろう。
食事を手伝うのも俺の日課だ。アスプロスはひとりではモノを食うことも出来ない。
茹でて塩をまぶした芋のかけらを、指で摘んで口元へと持っていく。
1つ、2つ…よく噛ませて食い終わるのを見計らっては唇へと押し込むのだが、食が細いのか飽きるのか3つめになると口を開こうとしない。いつもそうだ。同じものを最後まで食うのをとても嫌がる。
最初の頃は諦めて別の食物を用意もしたが、毎回となるとそうもいかないし、贅沢させるような余裕もない。

「アスプロス」

俺は少し強い口調でアスプロスを叱った。怒っているという事だけは通じるようで、アスプロスは子供のようにうつむく。そしてぼそぼそと意味の判らない言葉を紡いだあと、はっきりと呟いた。

「2番目まででいい。あとはいらない」

兄の、数日振りに口にされた、意味のとおる言葉だった。
俺は黙ってアスプロスを見る。俺はただ兄さんと、こうして静かに暮らせればそれで良かったのだ。どこで間違えたのだろう。最初からか?

行き場をなくした指先の芋を己の口へと放り込む。カノン島の痩せた地でとれた芋は、やっぱり痩せた味がしたけれども、聖域のメシよりはずっと美味かった。

(2009/10/29)


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