アクマイザー

約束の彼方


アスプロスが俺の顔をじっと覗き込んでいた。
日課のごとくリンチでぼろぼろになっていた俺を、どこからか工面してきた傷薬で手当てしたあと、ずっとそうして黙っていたのだ。怖いくらいに静かな目で。
「お前を消すといった者たちすべて、俺が消してしまいたい」
あまりに自然にその言葉が漏れたので、それが兄の言葉だと気づくのに時間がかかった。アスプロスらしくもない台詞で、俺は少し不安になる。
「そんなことをしたら、お前も奴らと同じになってしまう」
別にあいつらがどうなろうと知ったことではない。しかし、アスプロスには汚れて欲しくなかったのだ。
アスプロスは、またじっと俺の顔を見た。
「お前の存在を隠す、そのマスク」
言いながら俺の頬をさする。俺の顔下半分は常にマスクで覆われている。兄弟二人で居るときすらも。それが災いの星と言われる俺に課せられた、聖域からの枷。
ふいにアスプロスの顔が近づいて、マスク越しの口元に唇が触れた。
突然すぎる兄の行動に、心臓が跳ね上がる。
「いつか必ず俺の力で外してみせる。その時に、また」
にこりと笑うその表情には、すでに先ほどまでの影はみえなかった。
俺は意志の力を総動員して、高鳴る動悸を抑える。
ただの祝福の口付けだ。アスプロスに他意など無い。
それでも、俺はその時、その約束の実現を願ってしまったのだ。

16年たって、俺は仮面を外して生きている。
けれども、アスプロスの言った『その時』は決して訪れなかった。

(2009/10/16)


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