アクマイザー

闇の林檎1


聖戦後、白のサガに対しては幾分態度の柔らかくなったアイオリアも、黒のサガに対しては友好的態度から程遠い状態であった。今までの経緯を考えれば、それは無理からぬ事で、こればかりは時間の解決することと周囲も放置している。
しかし、黒サガの側はアイオリアのそのような態度を微塵も気にしていない。むしろ、その拒絶を楽しむかのように、時折アイオリアの神経を逆撫でしては、じっと反応を見る。
ある日、とうとう怒りを爆発させたアイオリアは、黒サガに怒鳴った。
「ふざけるのも大概にしろ!俺は貴様の暇つぶしの玩具ではない」
獅子宮に響き渡る怒号すらも、黒サガの耳には涼風と変わらぬかのようだ。顔色も変えずにアイオリアの前に立った。
「ふざけてなど、おらん」
「では、何の用だ」
言外に、用が無ければ去れという意を込めている。
黒サガは目を細めて笑った。
「お前に、侘びをしようと思ってな」
「今更、口先だけの侘びなど必要ない」
アイオリアは切り捨てる。この黒サガが何を思っているのかは判らないが、サガ自身の贖罪は行動で示すべきものだと思っていた。今、目の前の男が形だけの謝罪など軽く口にしようものなら、殴りつけてやろうと拳を握る。
だが、黒サガは思っても見ない提案を持ち出した。
「あの時、私は幻朧魔皇拳でお前の意思を奪った」
「ああ」
「それゆえ1つだけ、何であれ今度は私がお前の命令を聞こう」
アイオリアは絶句した。
黒サガはゆるりと微笑む。その笑みは暗黒の蛇を思わせた。
「お前が私の死を望むのなら、それも構わん…さあ、お前は私に何を望む?」
獅子宮の主が咄嗟の返事が出来ずにいるところへ、アイオロスが入ってきた。思わぬ助けが来たように感じて、アイオリアが視線を向ける。反対に黒サガは、あからさまに顔を顰めた。
「何をしている、サガ」
「何も」
アイオロスに向ける黒サガの視線は、あきらかにアイオリアへ向けたものとは異なっていた。その事に気づいたアイオリアは、何となく胸が痛んだ。
「…サガの言うとおりだ。何でもないよ、兄さん」
黒サガの持ち出してきた提案を、兄にだけは話したくなくて、アイオリアは言葉を濁した。
(ああ、これは、イブの林檎だ)
アイオリアは、黒サガの差し出した甘い贈り物を、自分が受け取ってしまった事を自覚していた。
アイオロスに隠れて、黒サガと共有の秘密を育てる事が、兄に勝ちたいからなのか、13年前自分を置いていった兄への復讐なのか、アイオリアには良く判らなかった。

(2009/4/9)


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