アクマイザー

光の帝国


「お前さえよければ、冥界の俺の城で暮らさないか」

突然、来訪中の翼竜がこんな事をサガへ言い出した。
言葉を受けた双子座の兄は、柔らかい表情ながら青い目をぱちくりとさせて驚いている。その横から速攻、弟の鉄拳が至近距離のラダマンティスへ飛んだ。僅差で避けたのは、さすが三巨頭の実力と言うべきか。
「てめえ…目の前でオレのサガにプロポーズとはイイ度胸だ!死にたいらしいな!」
「カノン、小宇宙がどす黒くなっているぞ。本気で俺を殺そうとしているだろう」
「うるせえ、念のため聞いてやるが、オレとサガを間違えたってオチじゃねえよな。お前、オレとサガを間違えたことねえもんな」
「ああ、それだけはないな。しかし間違える方がおかしいだろう」
そう、この翼竜は出会った頃から、決して双子を違えることは無かった。
カノンが本気でサガのフリをした時には、聖域でも海域でも見分ける事の出来る者はいない。アイオロスがそのことで、とても悔しがっていたものだ。
ラダマンティスに言わせれば、魂の素材や根源は同じでも、表面上の波動が全く異なって見えるのだそうだ。

「冥界か…あそこは静かで良い場所だった。タナトスもいるし…」
「おい、サガまで何言ってんだよ、それに何故そこで死神の名前が出てくるんだ」
「弟よ、あの方は死神ではなくて死の神だ」
「同じだろ!あいつの何が良いんだよ、双子の弟属性に弱いのかアンタ」
「そういえばタナトスも弟であったか?同じ弟でこの出来の違いは…(溜息)」
「ちょっと待て。あの二流神、そんな出来良かったかよ?」
「カノン、俺の界の神に失礼な事を言わんでくれ。そしてタナトス様はギリシア神話的には兄とされているのだが…兄なのか弟であるのかは不明だ」
真面目なラダマンティスが隣から釘をさす。
「冷静に口挟むんじゃねえ!元々はお前のスットコドッコイな妄言が原因だろ!」
「お前の兄が俺の城に住めば、お前も冥界に常駐してくれるかと思ったのだ」
将を射んとすれば、馬からと言うだろう…と、あくまで真面目な翼竜にカノンは脱力した。
日常生活ではどこかテンポのずれているサガがのんびりと答える。
「私は馬か。まあ、私が冥界へ移動しても、双児宮はカノンに任せれば良いが…」
「そーだな。その場合オレが聖域から離れられねーよな、サガもラダも脳みそ使ってねえだろ」
「確かにそれでは本末転等だ。お前が俺の城へ来れなくなるのは困る」
「今までどおり、ラダがここに来ればいいだろ。せっかくデスマスクが巨蟹宮の黄泉路に冥界との近道作ってくれたんだしさ」
「聖域を守護する十二宮の途中に、冥界からの侵攻元になりそうな道を作るのも、私はどうかと思うのだが」
「そういう事を冥界の将である俺の前で言うのもどうかと思うのだが」
「ヘーキヘーキ、ラダ以外は通さないってカニも言ってた」
「聖域のシステムは黄金聖闘士各自の権限と自由度が高くて羨ましいぞ。冥界でも取り入れたい」
「めいめい勝手で団体行動の取れない聖域よりは、冥界の統率力の方が良いと思う」
「勝手行動の最たる男の言う事は説得力あるねえ」
ゴツ。サガの手が光速でカノンを殴る。
ラダマンティスは、自分の相手がこの兄の方でなくて良かったと実感した。
実際にはカノンも随分ラダマンティスに対して乱暴者であるわけだが、愛で盲目状態になっている翼竜によれば「あれはコミニュケーションだ」ということらしい。
「海龍。前から聞きたかったのだが、お前はこの凶暴な兄のどこが良いのだ?」
冥界の実力者は、呆れたようにサガを指差す。
「君もなかなか失礼だな…私は弟の教育をしているだけで…」
「同い年で何が教育だ!ま、サガを乱暴だとか言うの、ラダくらいだぜ?サガって猫かぶりだしさ。アレ、そういやラダの前では隠してないのか」
殴られた頭を押さえながらカノンが不思議そうな顔をする。
サガは、神のようなと評されるに相応しい笑みを浮かべ答えた。
「お前の相手であるのなら、私にとっても家族のようなものだからな」
「サガ…」
兄さんの相手であるアイオロスはその範疇にないのかよ、という突っ込みを胸の中だけで押さえる。
いやまだ奴は「相手」にもなれていねえのか。サガ相手に苦労してるんだろうな。
内面でアイオロスに同情しているカノンを横に、サガは翼竜に頭を下げる。
「ラダマンティス、私のカノンを末永く宜しく頼む」
「それはつまり、お前のことも末永く…ということだな」

翼竜はカノンと常に共にある兄も自然に受け入れた。カノンの魂と繋がりのある双子座の兄を切り離そうとせず共に取り込む。
その懐の深さがカノンを惹きつける魅力の1つであるのだろう。
弟を取られる寂しさからか、最初は無意識に反発していたところのあるサガも、今ではすっかり懐柔されている。
「お前のその甲斐性、23歳に見えねー」
カノンは照れたようにサガの頭をくしゃりと撫でてから、ラダマンティスに抱きついた。

(−2006/9/23−)


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