彼女の姿が見えた時、咄嗟に周りのクルー達が騒ぐのも無理はないと思った。

白い膝丈のワンピースを身にまとった彼女は、とても神秘的に見えた。肌も髪も白いからそう見えるのだろうかと考えたが、それだけでここまで美しく見えるのだろうか。歩くたびに揺れる長い髪は、まるでこちらを誘っているようだ。紅い瞳は着飾られた宝石のように輝いて見え、まるでこちらを萎縮させてしまうような色気を放っている。
普段クルー共々お揃いのつなぎを着ているせいで分からなかったが、ヴィダはこんなにも女らしく成長していたようだ。船長とは違う感情でヴィダと接している自身も、これを見て思わず惚けたような息が溢れた。
この現状を作った本人である船長を見てみれば、酒ビンを片手にまるで石のように固まっている。顔は面白いことに、先程の赤みより何倍も濃い色になっていた。本人もまさかここまで似合うとは思わなかったようだ。
船長のとてつもなく珍しい光景に、隣にいるシャチが「カメラは!?俺取ってくる!」と言って船内へと走っていった。確かにこれは撮って後世に残す価値はある。

「ロー、その、ありがとう!すっごく嬉しい。…私、こーいうの着たことないからその、変…かな…」

船長の目の前まで来たヴィダは照れているのか、目を伏せながら、顔をほんのり赤くする。なんと初々しい光景だろう。いつも船の中で走り回っている少女とは思えない。恋の力とは凄まじいものだ。
そんな彼女に話しかけられた船長は、ようやく現実に戻ってきたようだ。

「あ、ああ…悪くねェ…」

素直じゃない言葉を吐いてはいるが、明らか目は泳いでいる。顔の赤みも引くことを知らないようだ。
思わず俺は自分の口を手で押さえた。俺はいつまで笑いを堪えられるだろう。こんな船長、初めてだ。

「ありがとう…!」

船長の言葉に嬉しくなったのか、ヴィダは花が咲いたように笑い、石のように固まる想い人に抱きついた。周りのクルーから羨ましいような声が聞こえる。いつもの船長だったら余裕な顔をして彼女を抱き返すのに、今日の船長は抱き返すことをせず、手を空中で泳がせている。
明らか挙動不審であるその姿に、俺はついに耐えられなくなった。

「あははっ…船長がギャップに弱いなんて…俺初めて知りましたよ…っ…っふふ…!」
「なっ…!ペンギンてめっ…!」

船長がこちらを睨みつけた時、俺の笑い声で側に寝ていたベポが目を覚ました。そしてすぐにヴィダのワンピース姿を視界に入れ、目をキラキラと輝かせながら感嘆の声を上げた。

「わあ!ヴィダ!すっごい似合ってるよ!」
「ほんとう?ありがとうベポ!」

2人の楽しそうな会話に、クルー達が癒されたかのような顔をする。船長の顔の赤みも引いてきたようで、ヴィダの肩をそっと抱いていた。少し落ち着いたのだろう。

「でも、なんかどっかで見たことあるんだよなー」

珍しくベポが頭を抱えて悩み出す。見たことがある、という言葉に、周りは疑問を抱いた。一体なんだというのだろう。
だがベポはすぐに顔をパアッと輝かせ、答えを導き出した。

「思い出した!お嫁さんだ!」

思い出された声は随分と大きかった。
船長が唖然とし、俺のいつもからかわれるへの字の口もポカンと空いてしまう。
一瞬の沈黙はすぐに破裂したかのような笑いに包まれた。

「ナイスだベポ!」
「いいぞいいぞー!じゃあ今日は船長とヴィダの結婚式だーー!おい誰か酒持ってこーい!!」
「盛り上げるぞ!!!」
「「「おー!!」」」

笑いこけるクルー達は次々と船内から酒を持ってくる。それにすれ違うようにシャチがカメラを携えて帰ってきた。周りのテンションの高さに、シャチが疑問を抱いて俺に質問してきた。

「なに?なに?今どういう状況!?」
「いやーぁ、これだったら船長用の服も買っとくんだったなって感じで…」
「ペンギン黙ってろ!!!!」
「結婚って確か…むぐっ」
「お前も黙ってろ…!」

船長がヴィダの口を塞ぎ、鬼の形相で俺を睨んでくるが、顔はいつもより赤いせいか普段の威厳は感じられなかった。

「今更なに言ってんだよキャプテン!やることやってんだろー!」
「おいおいそれセクハラだぞー!」
「おい誰か花持ってこーい!」

酒がどんどん入ってくるせいか、言いたい放題に口が回る。だがそれが駄目だった。

「…お前ら…ッ!」

プルプルと震えながらドスの効いた声で船長が呟く。気付いた時には船長の手に鬼哭が握られ、青いサークルが展開されていた。

笑っていたクルー達の表情は消え、顔色も真っ青になった。

「いい加減に…」

船長が鬼哭に手を掛けた時、誰もが己の身体がバラバラになるのを覚悟した。思わず俺も目を閉じて守るような姿勢を取ってしまった。
しかし、いつまでたっても身体にはなにも起きない。恐る恐る目を開けて見れば、とりあえず自分の身体は繋がっているのを確認した。
一体どうしたのかと思い、疑問に思って顔を上げると、ヴィダが背伸びをして船長にキスをしている光景が映った。
いきなりの光景だったので、思わず俺の心臓はドキッと跳ねる。周りのクルー達も驚くように見ていた。
唇が離れ、船長はぽかんとしている。見る限り仕掛けたのは船長ではなく、ヴィダからで合っているだろう。
彼女はほんのり頬を染めた。

「…誓いのキス、です」

そう言ってニコッと笑いかける姿がとても愛らしく、思わずこっちが赤くなる。船長は自身の手で顔を覆い、必死に羞恥を隠していた。
クルー達がまた雄叫びを上げ、甲板はまた騒がしくなる。

「…あんまり怒ってあげないでよ、ロー」
「…お前な…」

眉を寄せる船長を見てヴィダは笑った。彼女の笑顔に諦めたのか、船長は小さく息を吐いてから、その白い頬に軽くキスをした。ヴィダはまた嬉しそうに笑う。

それを見て、もう何しても大丈夫だと学習したクルー達は、また浴びるように酒を飲み始めた。

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