それは物資を揃えようととある島で停泊していた時のことだった。船長含め、護衛を兼ねた俺、シャチ、ベポの4人は大量の荷物を抱えながらその日の夕方を迎えた。そろそろ船へと戻ろうとした、そんな時であった。

俺たちの前を歩く船長の足が止まった。

「どうしたんですか、船長?」

俺は疑問に思い、突然足を止めた船長に問いかけたが、生憎船長は右のある一点を向いたまま、返事をしない。俺はその原因を探るべく、船長の視線の先を辿った。

「あ!」
「わぁ…!」

どうやら俺の隣にいたシャチも気づいたようだ。ベポもその視線の先に感嘆の声を上げる。
男4人が一点を見つめる先にあるのは衣類を扱う店のショーウィンドーだった。そのショーウィンドーの中には、白い美しいワンピースが飾ってあった。俺は船長の考えていることがすぐに分かった。これを見て、彷彿とさせる人物が1人いたからだ。

「…ヴィダかー」
「!」

自分の名前を言われた時は反応すらしなかったのに対し、溺愛する人物の名前を出しただけで船長の肩が揺れた。その様子を見て俺は思わず口角が上がってしまう。どうやら図星のようだ。

「船長!これ絶対、ぜーったいヴィダに似合いますって!想像しただけで似合ってるもん!」

シャチが白いワンピースに指を示しながら嬉々として船長の顔を見るが、船長は鬼の形相でシャチを見返した。

「テメェ…人の女で何勝手に妄想してんだよ…!」
「ちょっ、今そこ怒る!?」

純粋な気持ちで勧めたというのにまさかの反撃がシャチの心を抉った。しょんぼりと肩を落とすシャチに対して今度はベポが船長に問いかけた。

「俺、クマだからよく分かんないけど、これきっとヴィダに似合うと思うなー」

ベポには甘い船長は鬼の形相を止め、普通の表情に戻り、再度ショーウィンドーを見つめ直した。シャチが「なんで俺だけ…」と呟いたが、そこは誰も気にしない。
ショーウィンドーガラスには白いワンピースの他に俺たち自身の顔も写っていた。俺は本来なら背中しか見えない船長を、ガラス越しに写ることで見える顔に問いかけた。

「…ヴィダ、きっと喜びますよ…とても」

船長は少しの無言の後、答えるように帽子を深くかぶり直した。

「…お前ら、先に船に戻ってろ」

船長の言葉に俺たちはいつもの掛け声で返し、両腕に携えたたくさんの荷物を抱え直してから、一足先に船に戻ることにした。少し進んだあたりで後ろからベルの音と共に「いらっしゃいませー」という声が聞こえた時、俺は思わず笑ってしまった。

「なんだよペンギン、気持ちわりぃぞ」
「思い出し笑い?」
「うるせーよ」

俺は軽く言い返してから先ほどの帽子を深くかぶる際の船長の顔を思い出した。あんなに顔を真っ赤にしていたら、笑う以外どうすることもできないだろう。

「帰ってきたら、楽しみだな」

目の前で笑わなかっただけ、褒めていただきたい。

〜〜〜〜〜

「今日ヴィダがおめかしするんだって!?」
「…ああ…まあ…」

甲板に集まっているクルー達は多分点呼をとれば全員いる。夜は任された不寝番以外は自由時間だというのに、街にも繰り出さずにこいつらがこうして船に残っているのには理由があった。元々この白いワンピースの話は俺たち含め4人しか知らなかったはずだ。別に秘密にすることもないのだが広め方が少々駄目だった。

「船長がヴィダに可愛い服プレゼントしたぞおお!!」

シャチの雄叫びがこの結果である。自然に渡して落ち着いた形でそれを眺めようとしていた船長にとって、それはどうやらかなり不服だったらしい。現に、シャチの頭には思わず拝んでしまいたくなるようなたんこぶのタワーが出来上がっている。だが本人の顔は至って幸せそうだ。やりきったような顔をしている。こいつとは古くからの付き合いだが、たまになにがしたいのか俺は分からない。
気にせずに船長の方を見るとご立腹なのか、はたまた照れ隠しなのか、寝ているベポに寄っ掛かりながら酒を仰いでいる。その顔はほんのり赤い。船長は割と酒に強い方なので、この様子だと現段階で大分飲んでいることが分かる。そうなると、これはヤケ酒の可能性が高い。馬鹿な同僚と子供のような上司に軽くため息を吐いた時だった。

『う、おおおおおお!!!』

突然、クルー達が野太い雄叫びを上げた。その視線の先を辿れば甲板の扉の方を向いている。他のクルー達が邪魔でちゃんとは見えないが、恐らくヴィダだ。

「…なんでお前らが先に見んだよ…邪魔だ」
「気持ちはわかりますが落ち着いて下さいよ」

船長がふらりと立ち上がり、ヴィダを迎えようとする。軽く人を殺せる視線が、いつもより鋭くなっていて恐ろしい。

「ヴィダ!すげぇ似合ってるぜ!」
「それ船長からだろ?センスいいなー!」
「可愛い!」

周りから聞こえてくる声とともに船長の不満度はふつふつと湧き上がってくるのが分かった。そろそろやばいかもしれない、そう思った時、ようやくヴィダの姿が見えた。

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