「…なにしてんだ、ヴィダ」
「あれ?キュンてこない?」
「…きゅん?」
部屋の中で「壁際に立って」と言われ、暇だから言う通りにしてみればなんだこれは。
「壁ドンっていうのをしたら、キュンとくるんだってー」
身長差があるせいか、俺を見るヴィダは自然と上目遣いになる。
両脇に置かれたヴィダの腕が、身動きを阻むこの状況。
壁ドン。
聞いたことがある。というか、
「…それ立場逆じゃねェのか。これは男がする側だろ」
「え!?そうなの!?」
その名を詳しく知っているわけではないが、明らかにこの状況が違うというのは、なんとなく分かる。それにこれは体格的に男がした方が見栄えがいいだろう。
「…分かったならどけ」
空いた手で宥めるように頭を撫でてやれば、ヴィダは拗ねたような声を上げる。
そして俺の希望に反し、ヴィダは離れるどころか壁についていた手を俺の背中へと回してきた。近距離から、完全なゼロ距離になった状態。
そっぽを向く頬はどことなく赤い。
「…離したく、ない」
可愛らしい声で紡がれた言葉に、俺の心臓は締め付けられるような感覚に陥った。
顔に熱が帯びる。
ちくしょう。もう何度目だこれは。
「……勝手に…しろ…」
負けた。
何回目か分からない敗北に、俺が誤魔化すように彼女を抱き返せば、嬉しそうな声が聞こえた。
「ヴィダに壁ドンを実践してやろうとしたら、目ェ輝かせてどっか行っちまった」
「…テメェの悪知恵だったのかよ…つかどさくさに紛れてあいつになにしやがる」
ローはキッドを睨みつける。だが、悠々とコーラを飲む姿に、詫びる気持ちなどさらさら見えなかった。
ここでいつもなら喧嘩が始まるのだが、今回、ローは溜息だけを吐いた。
「…まあ案外…あれ、悪くねェ」
ぼそっと呟いた言葉に一瞬の沈黙が走れば、キッドは鬼の形相でペットボトルを握りつぶした。
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流行りは過ぎた。すいません。
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