「…お前さん、見かけない顔だな」

男は片手に小さい斧を持っていた。

「俺はこの島の人間じゃねェからな」
「そうか。まあいい。質問なんだが…ここに紅い目をした少女はいなかったか?」

紅い目をした少女、そう聞いて頭に浮かぶのは1人の人物だけだった。

「…知らねェな」
「…そうか。悪かったな」

男は来た道を戻ろうとする。
が、ローはその背中を呼び止めた。

「それっぽい人物をあっちで見たような気がする。無造作に探し回るよりよっぽどいいんじゃねェか?」

ローは少し笑みを浮かべながら遠くの方を指差した。
ローの解答に男は喜びを表す表情を出した。

「おおそうか、ありがとう!助かったよ!それじゃあな」

来た時とは全く違うテンションで男は去っていった。
本当の場所を教えてあげても良かったが、どうも嫌な予感がした。ローは男が帰っていった道を睨むように見つめ返す。

「あ。ロー!おまたせ!」

ちょうどよくヴィダが帰ってきた。
もう少し早く帰ってきていたらあの男に会うことになっていただろう。
しかし、ひょっとしたらヴィダにとってあの男は本当に知り合いなのかもしれない。

「ヴィダ、今お前を探しているという奴が通りかかった」
「えっ」

ヴィダの動きがピタッと止まった。
活発的な少女の不自然な動きを、ローは見逃さない。

「奴はお前とは反対の方向に行った。…知り合いか?」

ヴィダは自分の着ているローブを己の手でぎゅっと掴んだ。
それはなにかに耐えているように見て取れた。

「わかん、ない」

絞り出た言葉は解答にしては不向きなものだった。
しかし、ローにとってそんな解答はどうでも良かった。

「…なんて顔してやがる」

ローはヴィダの悲しそうな顔を見た。
思わず、さっきまでの笑顔を思い出す。

「…お前をそうさせるのは一体なんだ?」
「…ローは、悪魔の実って知ってる?」

突然意外な話題に驚いたが、ローはなにも追求せずに質問に対して頷く。
これがヴィダに関することならば。

「当たり前だ。それこそ俺は能力者だ」

その発言に、ヴィダは驚きの声を上げた。

「そう…だったんだ…じゃあ、泳げないね!泳げないのに海賊って怖くないの?」
「そんなのいちいち気にするわけねェだろ」

ヴィダは笑った。
その笑顔に、ローは少しの安堵を覚える。

「そっかぁ、そうだったんだー…。ねぇロー、実は私も能力者なんだー」

ローは「へぇ」と少し目見開く。意外だった。
まさかこんなところで悪魔の実の能力者に会うなどと思わなかった。

「ローはなんの実?」
「オペオペの実だ」
「なんか医者っぽいね!」
「うるせェよ。…お前は?」

ローの発言にヴィダは身を強張らせる。しかし、すぐに笑顔になった。

「…明日教える!」

ヴィダの発言に、ローは唖然とした。

「遊ぶな。俺は気が長くねェ。今、教えろ」
「やだー」
「ガキかお前は」
「ガキじゃないよ、もう17歳だよ!」
「十分ガキだろ」

ローはヴィダに詰め寄った。
自分だけ言ったのがまるで馬鹿みたいだった。だが、ローはある算段を思いつく。

「…いいだろう。明日まで待ってやる」
「え。本当?」
「ただし、条件をつける」
「なに?」

キョトンとしているヴィダの身体を、ローは優しく抱きしめた。

「俺と来い、ヴィダ。側にいろ。それなら明日まで待ってやる」

優しく囁くようにローは伝える。
ヴィダは大きく目を見開いた。
そして少しの沈黙が流れ、ヴィダは受け入れるように目を瞑った。

「……いいよ」
「フッ……決まりだな」

ローは満足気な笑みを浮かべ、ヴィダを離した。

少女は優しそうにはにかむかように笑った。

「じゃあ、ロー。また明日ね」
「ああ…」

その笑顔に心打たれる。
少女はひらりと身を翻し、森の奥へと去っていった。それを見てローも自分の船へと歩みを進める。

「…ごめん、ロー」

少女の泣くような呟きは、彼の耳に届かなかった。
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