白い毛並みに包まれた美しい赤い瞳は、ある一点を見据えた。その視線を辿ればただのドアだ。このドアには鍵がかかっており、関係者以外は入れないようになっている。シーザーに停泊の許可はもらったが、立ち入ってはいけない場所があるのはいくつか聞いていた。恐らく、それがその一つであろう。

「…気になるのか。飽きないな」
「ンナァーオ」

ヴィダはその一点を見つめたまま、よく分からなそうに首をかしげた。
ローとヴィダがパンクハザードに来てから、数ヶ月が経っていた。滞在当初はヴィダもなにも気にせずにいたが、月日が経つたびにそのドアを見つめるようになった。最近では、無意識なのか、よく聞き耳を立てている。本人曰く、日に日になにかが聞こえてくるらしい。恐らく、猫の姿だと、人間時よりよく音が聞こえるからであろう。しかし、それはローにとってまったく関係のないことだ。

「つまらねェ詮索はするな…とは何度も言ったはずだが?そこにはなにもねェ。ここは俺たちしかいないんだ」
「んにぃー」

ソファーで足を組み、ため息混じりにヴィダを見つめて言えば、「だってー」とでも言いたそうにこちらを振り返る。猫の姿で言葉は分からないというのに、伝わってくる感情はとても分かりやすい。
そんなことを思っていると、突然ヴィダの耳がピン、と立った。また何かが聞こえたのだろう。その視線は玄関の方へと向いた。と同時に、ブザーの音が部屋中に鳴り響いた。

「…来客、か」
「にゃあ!」

今までブザーを鳴らして尋ねる者などいなかった。そう考えると、尋ねてきた人物はここに来て間も無く、さらには律儀な人物であることが予想できる。ローには大方見当がついた。その人物を思い浮かべ、不敵に笑みを作りつつ、ローは腰を上げた。同じく出迎えようと張り切って出口へと向かうヴィダだったが、ローはその襟首を掴み、触り心地の良い体を抱き上げた。

「お前はここにいろ」
「にゃーぁ?」

その言葉に軽くしゅんとするヴィダをあやす様に、ローはその頭を優しく撫でてからソファーに降ろした。

「…いい子で待ってろ」

頭にキスを落とせばヴィダはようやく渋々と従い、また、返すようにローの頬にキスをした。それは側から見たら見送りの挨拶のようにも見えた。
ローは満足気に玄関へと赴き、随分と人相の悪いスモーカーが率いる海軍を出迎えた。

〜〜〜〜〜〜〜
「ここにいるのは俺1人だ。“麦わら”がもしここへ来たら首は狩っといてやる…話が済んだら帰れ」

自身にはちゃんとした目的がある。今ここで海軍に邪魔をされれば、その計画は狂うことになりかねない。従って、これ以上事を大きくしたくはないというのが本音だ。
ローはこの後の対処の仕方を考えていた。すると、突然中で待っているはずのヴィダがローの足元へとやってきた。

「にゃー!」
「なんだ、お前は中にいろといっただろうが」

ローが叱るように言いつつも、ヴィダはそんなの御構い無しにローの体をよじ登り、慣れているかのように肩へと乗った。その様子を見ていた海軍は、一瞬呆気に取られる。スモーカーやたしぎまでもが怪訝な顔をしてこちらを見ていた。

「猫…?」
「あの野郎猫なんて連れてやがったか…?」
「なんてミスマッチ…」

そんな声が周りから聞こえてきた。

「にゃーにゃー!」

しかしヴィダはなにかを訴えるように仕切りにローに話しかける。だが生憎、一語一句理解できるほど、そこまでの意思疎通はできない。ヴィダの視線を見る限り、今分かるのは、研究所の中になにかがあるということだ。

「一体なん…」

すると、だんだんと複数の声と足音がローを含め、この場の全員の耳に届いた。ローの中で疑問が浮かぶ。その瞬間だった。大ダヌキを初めとした複数の大きさを持つ子ども達がローのいる玄関から外へ飛び出してきた。
見れば、麦わらの一味もいる。
その内の1人の女と1匹がローに気が付き、捲し立てた。

「あー!あんた見覚えある!」
「そうだシャボンディにいた奴だぞ!」
「まさか子供達閉じ込めてたのあんた!?この外道!この子達返さないわよ!」
「にゃあ?」
「…構うな、ヴィダ…」

ヴィダがよく分からなそうに問いかけるのを、ローが呆れるように止めた。と同時に、内心でシーザーを恨んだ。大方この現状を見る限り人体実験をしていたのだと予想がつく。別に相手のやることにとやかく言うつもりはない。だが、セキュリティが甘すぎではないだろうか。

「……いるじゃねェか!何が一人だ!」
「…いたな…今驚いている所だ」

スモーカーの問いに、ローも予想外というようにため息を吐いた。その姿は嘘をついているようには見えなかった。

「にゃーあ!」

ヴィダはローの頬に自分の体を擦り付けるように密着させた。

「…ああそうだな。お前の勘は当たってた。悪かったよ」
「んにぃ」

ヴィダを優しく撫でれば満足気に目を細めた。しかし、その間にも麦わらの一味は先を行こうとする。

「…あいつら!面倒持ち込みやがって…!」

これ以上の勝手はこちらの計画にも穴が開く、と判断した。ローは「ROOM」と唱え、薄いサークルを張った。

「お前らも島から出すわけにはいかねェ…人がいねェと言ったことは悪かったよ…!」

戸惑う海軍を一瞥した後、先を急ごうとする麦わらの一味を見つめる。

「あいつらも逃すわけには…侍もいたな」

シャンブルズ、ローはそう呟いてから、麦わらの一味の精神を各自入れ替えた。

「うにゃあー!」

それを見たヴィダが何してるの!と言わんばかりにローに訴える。

「こっちの計画に穴が開かないようにする予防線だ。許せよ」
「うにぃ…」

船長であるローを第一に優先するヴィダにとって、それに反論する要素はなかった。渋々と納得するヴィダの襟首を掴み、ローはそのまま床に降ろした。

「中にいろ、ヴィダ……今片付ける」

戦闘は始まった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ヴィダは言われた通り、中に置いてあるソファーの上に丸まりながら、ローの帰りを待っていた。しばらくすると、玄関が開き、悠然とした足取りでローが帰ってきた。
ローはヴィダに近づき、その体を優しく撫で、隣に腰掛けた。そして悩むような顔をしてから、ローはゆっくりと口を開いた。

「…今、そこで麦わら屋に会った」
「うにゃ!?」

麦わら屋、という予想外な言葉に、ヴィダは驚いたのか、変な声が出た。そして大丈夫だったのか、というような視線をローに送った。それを認識したローはため息を吐いた。

「相変わらずだ」
「うにゃー!」

ヴィダは歓喜の声を上げた。恐らく、ちゃんと生きていたことに対しての喜びだろう。しかし、ローにとっては自分ではない他人に対して喜ぶ彼女の姿に、共感はできなかった。むしろ、変な嫉妬が滲み出てくる。

「…お前、あいつの前で絶対に人型になるなよ…!」
「にゃ…にゃ…?」

普段から人相が悪いというのに、今その上を行くような顔でローはヴィダを見た。
そして少し考えた後、シーザーの所へと向かうのか、ローは歩き出した。ヴィダもその後ろに続く。

「聞け、ヴィダ。まだ、完全に決めたわけじゃねェが…」

聞かれたくないのか、随分小さな声だったが、今のヴィダにとってはなんなく聞こえる大きさだった。

「麦わら屋と、同盟を組む」

それは驚くべき答えでもあったが、拒否をする理由などはなかった。

ーーあん時ゃ本当にありがとう!あれ?しゃべる熊と…あいつは?
ーー…あいつ?誰のことだ。
ーーなんか、白くて、キラキラしたやつ!
ーー!!!……知らねェな…。
ーーあれー?おかしいなー?まあ知らないならいいんだけどよ!ありがとうな!
ーー…ああ。
ーー(((いや待て明らかこいつ何か知ってる顔したぞ)))

main1

〜コメント〜
※なお、管理人限定表示でコメントされた方は、プライバシーを考慮した上で、コメント返信は行っていません。ご了承ください。

コメント
名前:

コメント:

編集・削除用パス:

管理人だけに表示する


表示された数字:



TOP
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -