新世界というのは常識が通用しない。その中の1つであるパンクハザードという場所は火で囲まれた場所もあれば極寒の地もあるという謎の気候を持ったところだ。俺たちの船はその極寒の地へと船を上陸させた。吹雪が強く、白銀の世界と形容できるこの島は、北の海出身の俺たちでも堪えるものがあった。
船長は陸に降り立ち、俺もクルーの代表として共に陸に立つ。船の上からはその他のクルー達が船長を見送るために、涙を堪えながらこちらを見ていた。
「本当に行ってしまうんですね、船長」
「ああ。ここまで悪かったな。言った通り、お前らは先にゾウに向かえ」
こんな極寒の地で船長1人を行かせるなど、本当に良いものかと思った。
「あ。せめてもの荷物です」
「いらねぇよ」
「俺たちを置いていくんですから、持って行ってくださいよ」
眉間に皺を寄せた船長だったが、俺の言葉が突き刺さったのか、渋々と荷物を受け取り、それを担いでいた鬼哭に括り付けた。
「…ヴィダは、いないのか」
船長が船を見上げた後、ボソッと呟いた。恐らく俺にしか聞こえていない。
「…今船長を見たら引き止めちゃうからって、部屋に篭ってますよ。…呼んできますか?」
「…いやいい」
愛する者から理解され、それを見送られたいと願うのは普通のことだ。船長には悪いが、ここは我慢してもらいたい。
「…じゃあな」
そう言って、クルー達の見送りの言葉を背に船長は吹雪の中を行ってしまった。雪というのは人を隠すのに適した所だというのはよく分かっている。船長は一瞬にして見えなくなった。
俺は船に乗り込み、船長に代わって涙ぐむクルー達に指示を出した。
「…ヴィダ、大丈夫だよな?」
シャチが心配そうに俺に聞いてきた。
「大丈夫さ、絶対」
安心させるように笑ってから、俺は出航の宣言をした。
〜〜〜〜
シーザーに事の端末を話し、ここに停泊する許可を貰った。部屋に1人となったローは、鬼哭に結び付けていた荷物を思い出し、それを乱雑に床へと置いた。その時だった。
「にゃっ」
空耳だろうか。今明らかにこの場に似つかわしくない音が聞こえた。ローの体から妙な冷や汗が出てきた。そしてある疑いを持ち、荷物を取り、中の物を一気に出した。
「んにゃー!」
どうやら疑いは確信だった。予想通りというべきか、中には白猫の状態のヴィダが丸まって入っていた。妙に元気な声を出してこちらを見ている。
「ヴィダ!なんでここにいる!」
怒鳴るように言えばヴィダは荷物の中から床に降り立ち、人の姿となった。
「私は待つって言ってないよ!ローが行くなら私も行く!」
「聞き分けろよヴィダ…それにあいつらに示しがつかねェだろうが!」
ローが怒るのも無理はなかった。クルーを含め、愛する人達を巻き込みたくないから、自分1人で赴いたというのに、まさかこんな結果になるとは。
ヴィダはローをじっと見た後、早々と荷物の中から電伝虫を取り出し、どこかに電話をかけた。
「ペンギン、ばれた」
どうやら電話の相手はペンギンらしい。ヴィダはそのままローに電話を渡した。
『こんにちは船長。そちらの具合はどうですか?』
受話器越しからペンギンの声が聞こえてきた。だがその他にも色々な声がわずかながらに聞こえてくる。その情報だけで共犯者はクルー全員だというのは明白だった。
「…これは一体どういうことだ」
『ヴィダの意向です。怒ってますか?』
「当たり前だ…お前らタダで済むと思うなよ…!」
ローは相手を睨むように言った。だがその相手は見えるはずもない。ペンギンはそんなローを想像して、少し笑った。
『じゃあ、ちゃんと俺たちを叱りに帰ってきてくださいね』
ローは言葉を呑んだ。
『あ。もちろん、その時はヴィダも叱るからな』
「えー」
『えー、じゃない』
隣で聞いていたヴィダがしょんぼりした顔で項垂れた。今度はペンギンどころか、クルー全員が笑っているような声が耳に届いた。
『約束だ、船長。俺たちはいつでも貴方を思っている。それだけは忘れないでくれ』
ローはペンギンの言葉に沈黙した後、小さな溜息を吐いた。
「……帰ったら、覚悟しとけよ」
『ええ、もちろんです』
電話を切り、ヴィダに向き直れば彼女の目は真っ直ぐにこちらを見ている。その目には強い意思が宿っているように見える。クルー達はこれにやられたのだろう。
「…俺がいいというまで、猫の姿でいろ。いいな」
そう言えば、ヴィダは花が咲くように笑った。その笑顔を見るのが、なんだか懐かしく思えた。
「約束、守ろうね。ロー」
「…ああ」
コラさん、俺はアンタのおかげで、こうして生きて、そして愛されているよ。
ありがとう。
ーー悪いなシーザー。こいつも追加だ。
ーーんにゃー
ーーシュロロロ…お前その面で猫なんて飼ってたのか…まあ俺は犬より猫派…
ーーヴィダに触るな。
ーー俺の腕がッ!!つーかこんなところでROOM張るんじゃねェ!!
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