麦わらのルフィの命を救ってから1年余りが過ぎた今、俺たちは新世界にいた。ここは常識という言葉が存在しないらしく、航路を歩むにつれ危険な事態が多々あったが、俺たちハートの海賊団はそれをなんなく乗り越え、今こうして命が繋がれている。それも、船長であるトラファルガー・ローがいて、そこに仲間がいるからこそのものだと俺は思う。

「ペンギン」

備品のチェックをしていた俺は、よく聞きなれた声に反応して振り返った。見ればそこには我らが船長トラファルガー・ローがいた。船長は入り口のドアに軽くもたれかかり、腕組みをしながらこちらを見ていた。それだけなら別になんの問題もないのだが、その表情はお世辞にも機嫌が良いとはいえない顔をしている。

「…ヴィダとなにかあったんですか?」

思わず口に出た質問は図星だったに違いない。現に俺の言葉に船長は軽く人を殺せそうな鋭い目つきでこちらを一瞥した。普通の奴ならここで土下座をするだろう。だが俺は昔からの付き合いもあって、この視線には慣れていた。まあ怖いことには変わりないが。

「…甲板に召集をかけろ。…全員だ」

俺の質問には答えず船長は言った。俺は2つ返事で返し、キリの良いところで備品の詳細が記載されている資料を机の上に置いた。

「ペンギン」
「はい?」
「…本懐を、遂げに行く」

部屋を出ると同時に船長はそれだけ言い残して行ってしまった。残された俺はそんなことを言われたにもかかわらず、驚きも焦りも感じなかった。船長が七武海に加入することを決めた時点で、そんな予感はしていたのだ。だから今こんなにも俺は冷静でいられるのだろう。

「…アイアイ、キャプテン」

誰もいない空間で呟いた後、俺も部屋を出た。俺はこの後起こることを予想しながら、クルー達に召集の声をかけるのだ。

〜〜〜〜〜〜〜

「えぇー!?何言ってんですか船長!!」

晴れ渡る青空の下でシャチの声がよく響いた。それを合図にするように他のクルー達もざわめきだした。船長はというと、眉間にしわを寄せながらシャチを睨んだ。

「うるせェぞ…シャチ」
「黙ってられる方がおかしいですよ!!パンクハザードに1人で行くだなんてなに考えてるんですか!?」

まあ、確かにシャチがこんな反応をするのも無理はない。まだ未知な場所に船長を1人置いていくなど、普通ではないことだ。
だが俺はこのざわめきようを見て、船長が七武海に入る時もこんな感じだったな、などと呑気なことを考えていた。

「時期が来た。俺は本懐を遂げに行くんだよ」

その言葉にシャチの身体が一瞬強張ったのが分かった。シャチと俺はこの船の中でも古株に位置する。船長の全てを知っているわけではないが、最低限、船長がそのために生きてきたということぐらい知らないわけではない。

「…でも、それが1人で行く理由にはなりません」
「うるせェ…俺は俺なりの考えがある。それともお前は俺が信用ならねェのか」

シャチが口を噤んだ。そして俺の方をちらりと見る。サングラスをかけていてその視線の意図が分かりにくいが、状況的にお前も船長に何か言ってやれ、というような意味合いだろう。だが生憎、俺はなにも言わなかったし、言う気もなかった。昔から船長が決めていたことを、とやかく言うつもりはない。それがどんな形でもだ。シャチも分かっているはずだ。どうせなに言っても船長に勝てないことを。

「……ヴィダは、どうするんです」

シャチはすがるようにヴィダの存在を船長に知らしめた。今この場にヴィダはいない。なぜか召集の声をかけても部屋から出てこなかったのだ。まあ、その理由は大方予想がつくが。

「あいつにはもう言った。…部屋に篭っちまったがな」

どうやら予想は当たっていたらしい。となると、先ほどの不機嫌な顔はこれが原因だったのかと納得する。そして彼女を溺愛する船長に少し同情した。愛する者に理解されなかった悲しみは、大きいに決まっている。

「お前らとの航路を終わりにするわけじゃねェ…俺を信用するなら待ってろ」

まったくずるい人だ。こう言ってしまえば俺たちは従うしか道はない。船長を信頼していない人なんて、ここにいるわけがないじゃないか。

「アイアイ、キャプテン」

ようやく折れたシャチやその他のクルー達の声を切れ目に、船長は彼らを持ち場へと戻らせた。俺もすぐさま資料室へと戻り、机の上に置いておいた資料を手に取り、また作業を再開した。しかし、先ほどと比べて一向に作業が進まない。もうこの船に来てから何十回、何百回も繰り返している作業だ。慣れているはずなのに、なぜか今だけ作業が進まない。

「…はは…メンタルよっわ……」

呟きと共に、俺は大きなため息を吐くのだった。

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