「…船長、またです」
「…これで何度目だ?」
「11回目ですね…今シャチに行かせてます」

波に身を任せ、船にぶつかってきた数十個の樽を甲板から見下ろしながらペンギンは言った。それを俺は横目で見る。
最近、やたらと小舟やら樽やらが船に流れ着くことが多い。それはまあ、航海をしている以上、ないこともない話なので、流れ着くのは別に問題はない。問題があるのはその漂流物の中身だ。開ければ金、宝石、食料、とにかく航海には欠かせないものばかりが最近大量に流れ着くのが現状であった。

「まあ助かるっちゃ助かるんですが…」

この船は潜水艦であり、最新の医療機器を兼ね揃えた船なのである。そんな船を維持する費用はやはりバカにならず、この船は常に"金欠"を背負って航海をしている。財宝でもなんでも金が入れば、万々歳だ。それも、漂流物から得るという、なんとも簡単なやり方で。まるで誰かがこちらに送りつけたのかと錯覚するレベルだ。これが始まったのは確かヴィダがこの船に来てから。つまり。

「…ヴィダの能力ですかね?」
「だとしたら、俺たちはすげェ愛されてるな」

俺は幸福をもたらす少女、ヴィダを見た。仰向けになって寝ているベポの腹の上でうつ伏せの状態で寝ている。服はこの前の島で俺が手掛けたつなぎ状のミニスカートを着ている。もちろんイメージはナース服だ。なかなかに似合っているので感心したが、あまりに動き回るので後から短パンを履かせた。船内の風紀を乱すのは勘弁だと思った結果である。…人のことは言える口ではないが。

「あーあ、よだれが」

ペンギンが笑いながらヴィダを見る。先ほどまでベポと稽古していたヴィダは疲れているのか、気持ちよさそうに眠っていた。俺はそんな様子に思わず笑った。

「船長!!」

呼ばれて振り返れば、シャチがいた。見るからに嬉しそうな顔をしている。

「酒です!あの樽の中、酒でした!全部!」

それはさも嬉しそうな声で言った。今まで酒が流れ着いたことはなくもなかったが、酒だけが流れ着いたのは初めてだ。

「この酒でヴィダの歓迎会やりましょう!まだやってなかったし!」

シャチは浮き足立っていた。ペンギンもシャチの言葉に賛成の意を表すような笑みを浮かべている。確かにヴィダが来てから、まだ歓迎会をしていなかった。治療に衣類調達、色々ことが終わった今ならできるだろう。それに、この船には酒好きが多い。日頃の疲れを癒す宴も兼ねての歓迎会は、クルー達にとってきっと大きな安らぎとなるはずだ。

「…酔い潰れて船から落ちんじゃねェぞ」

それは了承の合図に等しかった。
シャチはすぐさま船内のクルー達に声をかけた。
だんだんと船内が賑わってくる。よほど酒を飲むことが嬉しいのだろう。大きくなるクルー達の笑い声に釣られ、ヴィダが目を覚ました。寝ぼけた様子の少女の第一声は朝の挨拶。もう夕方になる、ということを伝え、俺はヴィダの頭を撫でた。


〜〜〜〜〜〜

夜、満月だった。月明かりが海のランプと形容できるほどに、美しく輝いていた。こんな日に船内で酒を飲むのはもったいない。せっかくなので、俺たちは甲板でヴィダの歓迎会をすることになった。久しぶりの開放感にクルー達のテンションは凄まじく上昇していく。ヴィダのおかげで集まった酒と食べ物がクルー達をより一層拍車をかけた。

「今日の主役はー!!!我らハートの海賊団の花形ー!!!」
「「「ヴィダー!!!!!」」」

クルーの男共に紹介された本日の花形ことヴィダは片手にフォーク、そのまた片手には魚の丸焼き、そしてニコニコと笑いながら「おー!ありがとうー!」と、雄叫びを上げた。実に花形とは言えない反応だったが、こいつらには大いに受け、笑いの嵐が船を包みこんだ。それを傍観しながら片手に持つ酒に口をつける。なかなかに美味い。上等な酒だった。すると早くも酔いが回ってきたのか、シャチとペンギン含めのクルー達が俺に絡んできた。

「せんちょー!なんでヴィダに短パンなんて履かせたんすかー!もったいねー!」
「せんちょーは男の浪漫を分かってると思ったのにー!!」
「そーだそーだ!」

うるさく抗議を上げる出来上がったクルー達を見つめた。

「へェ…なら言わせてもらおう。お前ら、ヴィダをそんな目で見ていたのか…。それをしていいのは俺だけだ馬鹿」

ニヤリと笑えばずいぶんや太い黄色い声が上がった。

「出たー!せんちょーのオレ様!!」
「かっこいい!抱いて!!」
「野郎を抱く趣味はねェ」
「「そんなところも好きー!」」

久しぶりでテンションが上がっているのか、酔いが回るのが早いと感じる。ヴィダの方を見れば、ベポと楽しそうに色々なものを食べていた。(大分仲良くなったな)お酒には興味ないのか飲まずに食べる方を優先している。頬袋はまるでリス、いやハムスターだろうか。そんな和むその姿にクルー達は温かい目線を送っていた。俺はヴィダから視線を逸らし、またクルーの方を向いた。夢中になっているのを無理に呼ぶ気はない。するとどうだろう。こいつら、ニヤニヤしながらこちらを見ている。

「せんちょー!せんちょー!」

嫌な予感がする。

「せんちょーはヴィダとどこまでいったんすか!?」

……ガキかこいつらは。
詰め寄ってくるクルー達に半ば呆れ、ため息が出た。だがその目は期待に満ち溢れている。なんだかヴィダに似てるな、と思った。もちろん、こいつらのような下心を除いた上で。

「やっぱキスはもう挨拶だろー」
「ばーか!当たり前だろ!船長だぞ?」
「ねぇ、せんちょー!どうなんすか?」
「お前な…そんなのあたりまーー」

言いかけ、ピタリと止まった。
突然の船長の動きに、クルー達の頭にはハテナマークが浮かぶ。ヴィダに出会ってから現在までを思い返すが、すべての記憶にない。確かにお互いを抱きしめたことはたくさんあった。そう、たくさん。

だが、キスはしていない。

まさかの事実に、驚愕するしかなかった。(笑われるだろうが、本当に驚いた)というか、なぜ今までしなかったのだろう。本能によるものだろうか。あの無垢な少女を汚したくないという、防衛本能なのだろうか。もしそうなら、なんとタチの悪い。
そんなことを頭で巡らせていると、察するようなクルー達の視線を感じた。

「……なんだ」

穴が空くほど見られては、こちらも反応に困る。思わず眉間にしわを寄せた。

「……船長ってヴィダのこと」
「すごく大事にしてますよねー…」

シャチとペンギンの言葉に、クルー達はほのぼのとした顔でうんうんと強く頷く。

「ヴィダを見てると、なんか純粋すぎて躊躇するよな!」
「あ。分かる!なんか汚したくない感!」
「初キスは応援しますよ!船長!」

見透かしているから言っているのか、はたまたこれはなにも考えないで言っているのか。この酔っ払い共の真相は定かではない。

俺はとりあえずこいつらの頭部を拳で殴っておいた。

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