「……どうするか…」
「…なにが?」

ローはヴィダを見て呟いた。
ヴィダの怪我はもう大分よくなっており、患者服を着せる理由がなくなっていたローは悩んでいた。
この船には今まで男のクルーしかいなかった。そうなると、船にある服は男性物ばかりである。つまり、女性専用の服がない。あっても、患者服程度しかない。しかし、ヴィダをいつまでもその患者服の格好でいさせるのには辛いものがある。服を用意するにあたって、ヴィダに出会った時に本人が着ていた黒いローブを思い出したが、あれはもう元々が使い物にならないぐらい布切れ同然であったため、すぐに処分したためにもうない。あったとしてもそんなものを着せる気などさらさらないが。そこでローはヴィダに自分のパーカーを着せてみたが、ヴィダは身長が高いというわけではない。パッと見、160cmもないだろう。したがって、身長の高いローのパーカーはヴィダにとってはもはやスカートである。良い具合に白くて細い足がローのパーカーから伸びていた。
ロー的にはその光景は実にありがたく、なにか込み上げてくるものがあるが、ヴィダは船内を駆け回るほどのじゃじゃ馬娘である。色々な意味で危ない。というか、こんな姿をクルーに見したくない。
いっそつなぎを着せるという案も考えたが、やはりサイズが合わない。男物だから仕様がないのか、1番小さいサイズでも随分動きにくそうだった。終いには転ぶ始末で、見ているこっちが気が気ではなかった。動き回るのが取り柄の少女にとって、これはかなりの苦であったに違いない。

いつの日か、ローはクルーに聞いてみたことがある。

「お前ら、ヴィダについてなんだが…」
「「「ナース服!!!」」」

待ってました!と言わんばかりのクルーの覇気に、ローは哀れみの目線を送った。

「船長!異論は認めません!!医者ときたらやはりナースでしょう!!」
「あ!でも女医って感じな服でもいいかも!」
「ばっか!ヴィダはドジっ子ナースでいくんだよ!」
「メスクマの格好がいい!!」
「「「却下!!!」」」
「すみません…」

うるさい男共、その団結力を他で活かせ、という願いを込めてローは熱い鉄拳を食らわせた。
しかしナース服というのは悪くない、と満更でもないことを考えてしまう。これぞ男の浪漫。まあ、こいつらの喜ぶような物は嫌だが、つなぎから連想すればある程度良いものができるだろう、そう思って当の本人に話を聞くと

「ナス?焼いたら美味しいって本に書いてあった。食べれるの?」

それ以前の問題であったことが判明した。

ローはそんな回想をしながらヴィダを見つめる。

「ヴィダ」
「ん?」

ローの部屋で本を読み漁ってる少女に声をかけた。

「次の島でお前の服を調達するぞ」

ヴィダは本を読むのをやめ、「え!?」と、驚きの声を上げる。髪を切ったせいか、表情がよく見えた。ヴィダの髪を切ったシャチを内心でそっと褒める。

「ふく?なんで?そんないいよ!私これで十分だよ!!」

患者服を着たヴィダが両腕を上げてアピールする。

「いつまでもその格好じゃダメだろうが。お前のためでもあるが、今後のためだと思え」

ローはヴィダの頭を撫でた。
ヴィダは不満そうな顔をしたが、次第に納得したような顔をした。

「…そうかー分かった。ロー、ありがとう」

ヴィダは笑った。この笑顔に似合う服…ローは考えた。今までのつなぎもオーダー制で作っていたから、今回もそれで行こう。とりあえずイメージは……ナース服で。
そこは揺るぎない。

「その島にはいつ着くの?」
「今日中には着く」
「…分かったー」

ヴィダは少し不安な顔をした。
ローはそれを見て疑問に思った。

「どうした」
「…私、自分のいたところと違う島に行くの初めてだからさー。なんかこう、不安なんだー」

住んでいた島で迫害されていたヴィダにとって、別の島は未知なるところであった。そんなことがあった人間にとって、実際外ではどんな反応をされるかに不安を持つのは、至極真っ当なことであろう。

「….お前が見てきた世界と、これから俺たちと見ていく世界は、まったく別物だ。仮にもし何かがあったとしても、俺はお前を手放さない。だから安心しろ」
「…ありがとう、ロー」

ヴィダはえへへ、と笑った。年の割に大分幼く見える少女の笑顔は、ローの心を癒した。

「でも、大丈夫だよ。私にはみんながいるから」
「ヴィダ…」

ローその身体をは抱きしめようと、腕をヴィダの方へ伸ばした。

「じゃあ」

だがそれは果たされなかった。

「私、準備するね!それじゃ!」

ヴィダはくるりと身を翻し、ローから離れ、部屋を出て行ってしまった。

「……………。」

ローは行き場の無くなった腕を見つめ、そして1人静かに項垂れた。

海中を泳いでいた船はちょうど浮上した。窓から外を覗けば、辺りは明るい。ローは日の光を浴びるべく、甲板へと向かった。

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