時期を待つ。新世界へはまだ行かねェ。

昼間、そう宣言してから時刻は寝静まる夜更けとなった。クルー達の中で酒を仰ぐものもいれば、寝床に身を埋める者もいる。ローに至ってはまだ眠る気はないのか、自室で椅子に腰掛けながら医学書を読み漁っていた。その静けさに時計の針の音がやけに大きく聞こえたが、集中して医学書を読むローにとって、それは無音に等しかった。
だがそれとはまた別に、だんだんと大きくなってくる音が近づいてきた。それは急ぐようにこちらに向かってきている。ローはそれにいち早く気づき、読んでいた医学書を閉じ、それを乱雑に机の上へと放り投げた。医学書と机が接する音と同時に、ローの部屋のドアは勢いよく開いた。

「ろーぉ!!!」

これから寝静まる時刻だというのに、まったくその気を微塵にも感じさせない元気な声を出しながら現れたのはヴィダだった。ヴィダがローの部屋に来るのは時刻を問わずよくあることだった。そのあまりの頻度に、どんなに本に集中していても、足音だけで少女が部屋に来るか否かが分かるようになってしまうほどだった。

「…なんだヴィダ。夜這いか?」
「よばい?ローに会いたいから会いに来た!」

少しの期待を交えて言えば、なかなかに可愛いことを返してくる少女に、ローは頬を緩めた。
ヴィダはそのまま部屋に足を踏み入れ、椅子に腰掛けているローの周りをうろちょろと動き回る。顔はいつものように楽しそうな表情をしていた。夜中なのに元気なものだと思った。

「あのね、あのね!!えっとね!!!」
「聞いてやるから落ち着け…」

ローはじっとしていられない少女の腕を引っ張り、お互いが向かい合わせになるように自身の膝の上に座らせた。そして話を聞くべく美しい瞳を覗く。そうして見つめれば、少女はローに答えるように視線を合わせた。

「夢!見たよ!!」
「…はぁ?」

一体なんの話だ、といわばかりに少女を見れば、ヴィダは続けるように桜色の唇を動かす。

「ほら!ローが知りたがってたやつだよ!!またその夢見たんだ!前は忘れちゃったけど、思い出したの!」

それを聞いてローは思い出した。
シャボンディ諸島で少女が寝ていた時の夢の内容を聞こうとしていたことを。確かその時は内容は忘れたらしく、聞けなかった。恐らく少女は今そのことを言っているのだろう。

「…わざわざそれを言いに来たのか」
「うん!さっきまで寝てたんだけど、ローに伝えたくて、起きたんだ!ローが知りたがってたから!」

律儀なものだ。しかしまたその夢を見たということはヴィダにとってなにか関わりのあることなのだろうか。同じ夢を何度も見るのは、なにかがあるとしか思えない。もしくは、自身の記憶を夢で見ているのだろうか。
ローの中で疑問は渦を巻く。

「で、どんな夢だ?」

核心に迫るために答えを急かすように聞く。

「笑った顔が面白くてね、それでこっちも笑顔になっちゃうような人と話してた!」

なんともよく分からない解答だったが、「笑顔が面白い人」で、ふと自身の幼い頃を思い出した。浮かび上がってくるのはドジでよく笑う大好きだった人。
ローは一瞬懐かしさに包まれたが、ヴィダの話に自分の恩師が関わっているはずはない。
少女が話しているのは素性の分からない誰かだ。

「すごい、楽しくて嬉しい夢だった!もしどこかにいるのなら、私は会ってみたいなぁ」

ヴィダは楽しそうに笑った。
だがそれを見て、ローはあまり嬉しいとは思わなかった。
今少女が向けた笑顔は自分ではなく、誰かも分からない、ましてや実在しているのかもわからない夢の中の人物に向けたのだ。
ローの中で小さな苛立ちがだんだんと大きくなっていくのが分かった。この感覚は少女がキッドや麦わらのルフィと関わっているのを見た時と同じだった。

だが今回はたかが夢だ。
そう思っているのに、ローはどうしようもなく耐えられない喉の渇きを感じた。自身の中で溢れ出る欲と葛藤する声が聞こえてきた。

「…ヴィダ」

掠れた声で呼べば少女がこちらを向く。その美しい瞳に魅了されるされるようにローは目を細めてから少女に口付けた。
突然のキスにヴィダは驚くが、ローは離すまいとヴィダの後頭部を手で抑え、もう一方の腕は少女の腰に回した。お互い密着した形の状態で甘いキスを繰り返す。
舌を入れてみれば、ヴィダの身体が一瞬驚いたように揺れた。自身の腕の中に閉じ込めているからこそ、その反応がよく分かった。

「んっ…ふぁ…ろっ……ッ!」

キスの合間に呼び止める声は虚しくも吐息と混じり、その中に含まれる制止の意はむしろ煽るばかりだった。ローは1回1回の口付けを深くし、その柔らかい唇を堪能した。それを幾度も繰り返し、ローがようやく糸を引きながら唇を離したと同時にヴィダは倒れこむようにローの腕の中に身を沈めた。その顔を覗けば頬は紅潮し、目には涙を溜めている。肩で息をしているその姿は、自身の中の支配欲を駆り立てた。ローは込み上げてくる熱に身体を震わせ、本能のまま少女を抱き上げた。

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