「俺は医者だ!」
海軍本部で繰り広げられる爆音の中、ローの声が響き渡った。目の前の光景はシャボンディ諸島で画面越しに見ていたものとは違い、凄まじいものだった。
ローはルフィとジンベエを抱えるバギーの方へと向いた。
「急げ!二人ともだこっちへ乗せろ!」
「麦わらさん!」
ヴィダも甲板へと走り出す。視界に捕らえたルフィの現状は、身体的ダメージは見ての通りだが、それ以前に精神がやられていることがすぐ分かった。ヴィダは顔をしかめた。
「置いてきなよォ〜…麦わらのルフィをさ〜…!」
「"黄猿"だ!」
バギーは大将の狙いが自分だと分かった途端、押し付けるようにローにルフィとジンベエを船の方へと放り投げた。
「受け取れジャンバール!よしそれでいいんだ!」
「ナイス!ジャンバール!」
ルフィとジンベエを受け止めたジャンバールに、ヴィダとベポが親指を立ててグッドの意を示す。
そして2人を抱え、急いで船の中へ入ろうと走り出した。黄猿はその中で動く白い少女を見据え、首をかしげるように呻いた。
「…聞いてはいたけど、まさか本当にハートの海賊団にはいるとはねェ〜…懐かしいよォ〜…あの能力は随分役に立ったからねェ〜…でも」
黄猿は標的を逃さないようにヴィダを一瞥した。
「海賊なんかの手に渡るのは厄介だから、悪いけど早めに摘ませてもらうよォ」
ヴィダは敵意が自分に向けられたことに気づき、すぐさま身構えるが、ローがそれを隠すように前に立ちはだかった。
「…意味がわからねェな」
「分からせるつもりもないよォ〜」
ローは黄猿の発言に少々引っかかるものがあり、怪訝な顔をした。
「ロー!今はダメだよ!」
時は一刻を争う。ローはヴィダに促され、船の中へ入ろうとした時だった。
「そこまでだァア〜!」
若い海兵の声が響き渡った。それは戦争に終わりを告げるような一声だった。その声につられて、人々は一瞬の動きを止める。その少しの時間が、こちらにとって大きな味方となった。
「キャプテンはやく!」
船の扉の前でローが空を見上げる。
「ロー?」
「ああ…待て。何か飛んでくる!」
ヴィダはローの視線の先を辿った。どこか見覚えのある麦わら帽子だった。ローはそれを片手でキャッチする。ヴィダはその麦わら帽子を見て思い出すように呟いた。
「これ…麦わらさんのだ」
精悍な男によく似合うこの帽子は、すぐさま麦わらのルフィのものだということが分かった。
「2人とも!はやく中に!」
ベポの焦る声でようやく2人は中へと入り、船は海底へと潜っていった。
青雉と黄猿は逃すまいと海底へ向けて攻撃を放つが、海中という見えない視界の中では撃墜が成功したか失敗したかわからない。
「これでまだ生きてたらァ…あいつらァ運が良かったんだと諦めるしかないねェ…まあ船内にあの子がいるなら可能性あるかなァ?」
言いながら黄猿はチラリと青雉の方を見た。
「…ちょっと手加減したんじゃないのォ〜?」
「…馬鹿言うんじゃねェよ」
青雉は黄猿を睨んだ。黄猿は興味なさそうにすぐ違う方角を見る。青雉もすぐ視線を動かしたが、どこか心の奥で安心している自分がいることには気づいていた。その心情と行動の矛盾さに青雉は小さく溜息を吐いた。
戦争は終わりを告げる。
次は後始末の時間だ。
〜〜〜〜〜〜〜
ルフィとジンベエの傷を見る限り、事態は一刻を争うのは一目瞭然だ。海軍本部から助け出したはいいが、もしここで死なれたら元も子もない。
「…ヴィダ、俺の助手をしろ」
「もちろん!なんでも命令してキャプテン!必ず役に立つから!」
やる気に満ち溢れた少女の言葉にローはニヤリと笑った。
「…期待してる」
「船長!麻酔は!?」
「いらねェ。麻酔をしなくてもこのダメージならなにしても起きねェだろ。もっとも、麦わら屋の場合はその奥の方がヤバイだろうが」
周りのクルー達に指示をしながら、ローは手術をすべく手袋を身につける。
「…楽しいオペになりそうだ」
命を繋ぐ時がきた。
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