1番GR。オークションハウスの前でジャンバールは不意に視線を感じた。その視線の先を突き止めようと泳がせれば、小さな白い猫が視界の中に入ってきた。

「ニャーン」

白い猫はひと声鳴いた。話しかけられているのだろうか。だがジャンバールは何も返さなかった。返したところで、何もない。そう思い、視界から白猫をはずした。

「ニャー?ニャー…………もしもし」

ネコの鳴き声の中で突然人の声が聞こえた。ジャンバールは思わず強張った。見晴らしのよいこの場所で今、人が通った後はない。
空耳だろうか。

「聞こえてない?」

いや空耳ではない。ちゃんと聞こえる。ジャンバールはその声のする方へと視線を向けた。するとどうだろう。視界に映ったのは人とは思えぬような紅い瞳をした真っ白な少女だった。しかも、今の今まで白猫がいた場所に少女は立っている。代わりに、白猫はいなくなっていた。

「…おい」
「お!やっと気づいた!猫だから言葉通じないの忘れてたよ!ごめん!」

少女は笑いながらジャンバールを見た。
紅い瞳はまるで宝石のようだった。ジャンバールは昔航海で手に入れた宝石のルビーを思い出す。

「…能力者か」
「え!?なんで分かったの!?」

少女は驚愕の声を上げた。どうやら当たっているらしい。しかし、ジャンバールにとってそんなことは関係がなかった。

「俺になんのようだ、小娘」
「ヴィダだよ。お名前はなんですか?」

こんな普通の会話だけで不信感を抱くようになっていた自分に、ひどく悲しさを覚えた。

「…ジャンバールだ」
「なんだか退屈そうだね」
「見れば分かるだろう。俺は奴隷だ。何をするでもない」

自分で今の状況を再確認するように言った。

「どれいってなに?」

少女は本当に分からなそうな顔をしていた。歳はまだ十代か。それでも、その言葉の意味を知らないとは、とんだ世を知らない子どもだ。奴隷である本人に、その言葉の意味を聞くなど、普通あるものか。

「…自由を捨てられた者のことだ。もういいだろう。行け」

話していても何も変わらない。オークションから天竜人が戻ってくる前に、この少女を行かせよう。面倒事はごめんだ。

「拾わないの?」
「…なにをだ」
「自由」

少女の瞳はまっすぐ自分を射抜いていた。まるで何かを見透かされているような気がして、思わず視線を逸らした。

「それができないからこうしている」
「じゃあ、私が拾うよ!」

訳のわからない言葉に、ジャンバールは思わず変な声が出た。だが少女はその様子をまったく気にしていない。

「あ。でも私じゃなくて、こーゆー場合はローが拾うことになるのかな」
「なんの話だ」

ようやく絞りだせた言葉は少し震えていたかもしれない。

「…嬉しい話だが、お前が拾えるような相手じゃない。相手はあのてんりゅ…」
「大丈夫!きっとローはあなたの自由を拾う。私がそうだったから!大丈夫!」

最後の言葉に違和感を感じた。少女も、似たような境遇だったということだろうか。もしそうならこの少女のいうローという人物はとんだ物好きに違いない。こんな人の話を聞かない少女を好むなど。
だが、悪い気がしないのはなぜだろう。

「…それはありがたいな」

少女の笑顔に思わずこちらも笑みをこぼした。笑うことなど、いつ以来だろうか。

その時、建物の中から叫び声とともに大勢の人が押しのけるように外へと飛び出してきた。出てくる人々の必死な顔に、少女はキョロキョロと周りを見る。

「なに?なに??ジャムバターなにかしたの?」
「……ジャンバールだ小娘」
「小娘じゃなくてヴィダだよ、じゃ……じゃんばある」

人の名前を覚えるのが苦手なのだろうか、この少女は。
ジャンバールは怪訝に周りの様子を見つめる。人が多く出てくるも、天竜人が出てくる気配はない。逃げ行く人々からは「海賊が天竜人に手をかけた」という声が聞こえてくる。本当にそんな奴がいるのだろうか。
そんなことを頭で巡らす反面、少女は呑気に空を見ては「なんか魚が空飛んでる!美味しそう!」と叫びながら顔を輝かせていた。お互いの温度差にジャンバールは調子が狂う気持ちだった。
しばらくして中からまた別の声がした。なにか言い争っているように聞こえる。声は次第に大きくなり、ジャンバールはその人物を視界に捕らえた。

そこにいたのは若い3人の海賊だった。

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