数時間がたって。
甲板ではまるで死んだかと思われるような姿で雑魚寝している酔っ払いで溢れかえった。その表情は幸せに満ち溢れている。明日には地獄の2日酔いが待っているのだが、そんなことを言っては酒なんぞ飲めない。まだ起きているとすれば、ヴィダと俺ぐらいだった。
意外にも今回俺はそこまで飲まなかった。先ほどクルー達に冷やかしを食らった後、物思いにふけている内に酒がどんどんこいつらの方へ回っていったのだ。まあ、別に恨む気などない。こいつらが幸せであれば、俺も嬉しい。

ヴィダの方を見れば、今の今まで馬鹿騒ぎしていたクルー達が、死んだように眠っている風景を心配そうに見ていた。安心しろ、放っといてもなんら問題はない、そう言って俺はヴィダを手招きし、自分の横へと座らせた。素直にそばに寄って来る少女に愛らしさを感じる。
肩に手を回せば、拒まずにそのまま受け入れてくれた。ヴィダはそのまま俺の方に寄りかかってくる。なんとなく先ほど冷やかされたクルー達の声が、頭を駆け巡った。

「ロー、今日楽しかった!ありがとう!」

身長差があるので、ヴィダは自然と俺を見上げる形となる。照れるようにニコニコと笑う顔を見て無垢な少女だと思った。側にいるだけで、こんなに満たされるなんて我ながら驚きだ。たしかにこんな少女を汚すなど、少し躊躇するかもしれない。だがこいつは俺のものだ。関係はない。
ヴィダの顔を自分の方へと向けさせた。いつまでも見ていられる、神秘的な容姿だと思った。心臓の動悸が治らないのは、きっと酒のせいだろう。

「どうしたの?ロー」

どうしたの?、その言葉に疑問を持った。

「だって今のロー、なんか変。これもお酒のせい?」

顔に出ていたのか、ヴィダは答えた。そして笑いながら俺の頭に手を伸ばし、ゆっくり撫でるような動作をする。とても心地がいい。
俺は今どんな表情をしてヴィダを見つめているのだろう。ヴィダが疑問を投げかけるほどだから余程に違いない。とりあえず言えることは、あいつらが酔い潰れていて本当によかった。こんな姿、死んでも見せられない。

「ヴィダ、俺のことは好きか」

言葉にしてまでいちいち確認したいなど、俺はかなり面倒臭い男になっていたらしい。
今甘えているのは少女ではなく、確実に俺だった。

「うん!大好き!…ローは?」

ヴィダは視線を合わせたまま、首をかしげた。その動きに合わせて白い髪が揺れる。月明かりのせいだろうか。俺が酔っているせいだろうか。普段、幼そうに見える少女が今だけ、少し大人びて見える。目の前で少女の数年後の姿を見ているかのように思えた。
動悸は治るどころか、悪化していく。かなりうるさい。俺はそれを誤魔化すように笑みを浮かべた。

「…野暮だな」

囁くようにして愛を伝えてから、引き寄せるようにそのまま口づけをした。柔らかい唇を味わうようにしてから離せば、少女のキョトンとした顔ーーーーではなく、初めて見る、耳まで真っ赤になった顔が拝めた。元々の肌が白いせいか、赤みがより一層際立って見える。予想外な反応に、もう1度しようと思って近づけた手が、無意識に自分の顔を覆ってしまった。
その時俺はようやく分かった。
今までの防衛本能は、俺自身を保つためだったのだ。もちろん、それは自分のためであろう。

頬は紅い瞳のように真っ赤に染まり、目には涙がたまっているのか、潤んでいる。

「……ろぉ」

今しがた味わった柔らかい唇から、俺の名前が紡ぎ出た。掠れた声で呼ばれれば、自分の体温が急上昇していくのが感じとれた。
俺は自分の顔を隠すようにヴィダを力強く抱き締めた。己の防衛本能をこじ開けた結果がこれだ。なんてことだろう。
今俺の顔は何色か分からない。

「もういっかい、して」

理性の鎖が崩れるのは、きっと遠くない未来だ。


ーーしたぞ!キス!初キス!船長おめでとう!
ーー俺たちの狸寝入りに気づかないなんて相当だな…
ーー俺…船長のあんな顔初めて見たー…
ーーキャプテンとヴィダかわいいー

雑魚寝のクルー達は愛すべき2人にひっそりと祝福の笑みを浮かべた。

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