「えぇー!?そうなの!?」
甲板にヴィダの元気な声が響き渡った。シャチとペンギンは笑いを堪えながらその様子を観察する。
「ああそうだ。俺の父親はなんと本物のシャチなんだぜ!」
「俺は母親がペンギンだったなぁ」
さも当たり前のように2人は言う。今日は4月1日。エイプリルフールだ。こんな天気の良い日になにもすることがないシャチとペンギンは、ヴィダをからかう遊びを思いついた。純粋な少女だ。今吐いている嘘さえ、事実だと信じている。こんなに騙されやすい少女に、今後が多少不安にもなるが、まあ今は気にしない。
「ちなみにベポは背中にチャックがついてて、中に人が入ってるんだぜ」
「ええー!?」
ヴィダはばっと寝ているベポを見る。チャックを探そうと目線を動かしているが、ベポは仰向けになって寝ているため、寝返りを打たせないと背中が見えない状況になったいた。ヴィダは残念そうに項垂れる。2人は耐えきれずに笑った。
「じゃ、じゃあ私もなんか言う!!」
「おっ?」
「みんなが本当のこと言ってるから、私も何か言わなきゃ!」
本当のこと。これに心が痛んだ。ヴィダは本当にエイプリルフールというのを知らないらしい。今全部言ったのは全て嘘なのだ。そろそろからかうのも潮時か。
「あのな、ヴィダ。実は今日はエイプリ…」
「みんながお酒飲んで酔っぱらってそこらへんで寝てる時ね!ロー、『いつもありがとう』って言いながらみんなの頭をなでるんだよ!」
「……え?」
2人は耳を疑った。それは事実なのだろうか。船長が自分達の頭を撫でて?礼を言う??
「……まじ?」
「うん!これ内緒って言われた!」
ヴィダが元気よく頷いた。その笑顔に嘘偽りはない。というか内緒の話をここでしていいのか。相変わらずこの少女はちょっと抜けている。2人はお互いの顔を見た。まさかあの船長がそんなことをしていたなんて。
「…ヴィダ、教えてくれてありがとうな」
「ああ。本当にありがとう」
2人はヴィダの頭をわしゃわしゃと動物を相手にするように撫でた。ヴィダは楽しそうに笑っている。そして流すように今まで言っていたこと全部が嘘、とネタばらしをすれば、少女の驚愕の顔がまた2人の口角を無理矢理上げさせる羽目となったのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「船長!!今日一緒に飲みませんか!?」
「てか飲みましょう!!いい酒ありますよ!!」
22時頃。シャチとペンギンは腕にたくさんの酒とつまみを抱えてローの部屋を勢いよく開けた。椅子に座って本を読んでいたローは眉間に皺を寄せ、2人を睨んだ。
「…おいお前ら。なにヴィダみてェなことしてんだ。勝手に入ってきやがって…」
ヴィダっていつも船長の部屋勝手に入ってるんだ…。と2人は場違いなことを考えたが、すぐさま切り替える。日中、ヴィダから衝撃発言を聞いた後、シャチとペンギンはどうやって船長のお褒めの言葉を直に聞くかを考えた。そしてその結論がこうだ。
船長の目の前で酔い潰れたフリをする。そうすれば、自分たちが意識のあるうちに船長の激レアな言葉がもらえるはず。嫌な顔をしていたローも、本を閉じてこちらを向いている。どうやら自分達のワガママに付き合ってくれそうだ。2人はテンションが上がっていくのを抑えながら、船長の部屋へと足を踏み入れた。
〜〜〜〜
時間はもう0時近い。4月2日になろうとしていた。
「船長ぉおー!いつになったら褒めてくれるんすかー!!」
「俺たちもう大分酔ってますよー!!」
「もう今日エイプリルフールですし、嘘でもいいから言ってくださいよぉ!!もう!」
酔い潰れるフリをするどころか完璧に酔ってしまった。しかも、真の目的までもを今ベラベラと喋ってしまっている。言い訳をするわけではないが、この酒、美味すぎた。どうやら自分達は上等な酒を選んでしまったらしい。手が止まらない。確実に酒に呑まれた。
「…ヴィダから聞いたのか」
「「聞いてません!」」
反応を見る限り確実に聞いたな、とローは思った。あれは言ってはいけない、という約束だったはずだ。ローはため息を吐いた。まあ正直なヴィダには難しい約束だ。ローは時計をちらりと見た。あと20秒ほどで日付が変わる。
「ROOM」
「「へ!?」」
突然のサークルの出現に、2人は冷や汗が出る。
「な、何をする気で…」
「馬鹿やってないでさっさと寝ろ。お前らの二日酔いはうるせェんだ」
「えー…」
2人は項垂れた。どうやらこの計画は失敗に終わったようである。そして合図のように時計の鐘がなった。日付が変わったのを知らせる音だ。それを聞いてシャチとペンギンは呑気にエイプリルフールが終わった、と思った。嘘でもいいから船長の言葉聞きたかったなぁ。
「ありがとう。愛してる」
何かが聞こえた。2人は思わず変な声が出てしまった。今の声は誰だ?なんて言った?
間違いがなければ、1人しかいない。
時刻は0時。4月2日。
「お前らに嘘を吐く気はねェよ」
ローはニヤリと笑った。
「せ、せんちょ…」
「シャンブルズ」
「わっ!?」
ローの合図と共に、2人は甲板へと出された。突然の肌寒さに、一気に酔いが覚める。いや、先ほどのことでもう大分覚めていた。
「……聞いた?」
シャチはペンギンを見た。
「ああ。もちろん」
ペンギンもシャチを見る。
2人は抑えることのない笑みを浮かべた。
「「船長愛してるー!!」」
夜の海で2人は叫んだ。
〜〜〜〜〜〜
「びっくりした。突然のシャンブルズ……夜風にあたってたのにー」
ローの部屋でヴィダは床に尻餅をついていた。ローはシャンブルズでシャチとペンギンの代わりにヴィダを入れ替えたのだ。
「お前が余計なことを言うからだろ」
「だってみんな本当のこと言うから、私もなにか言った方がいいのかなって…まあ騙されてたけど」
ヴィダは自分の失態を隠すように笑った。
それを見てローはため息を吐いた。
「人のことをベラベラ話すなと言ってるんだ。分かったな?」
ローはヴィダの額を指で小突く。
「はーい…ごめん」
しゅん、と反省している様子の少女を見てからローは自分の膝をぽんぽん、と叩いた。
「…来い」
その言葉にヴィダは嬉しそうに笑い、ローの膝の上に背を向ける形でちょこんと座った。ローはその小さな身体を包むように後ろから抱き締めた。
「…嘘は終わりだ、ヴィダ。俺を愛せ」
ローは少女の耳元で甘い真実を説く。
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さっき思いついて急いで書き殴りました。なんかわけわかんなくてすいません。エイプリルフールネタです。はい。自分もエイプリルフールよく騙されました。騙されすぎて未だ友人にネタにされるくらいヤバイです。
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