賑わう海軍の食堂で、俺は日替わりランチを食す。しかし、せっせと口に運ぶものの味は分からず、実を言うと食欲自体なかった。
理由は簡単だ。俺はこれから、ある海賊を捕らえるために出航する。
海軍訓練後、初の任務だ。
まあ、何が言いたいのかというと。

「やっべぇ……心臓吐く…」

緊張してまったく食欲がないのである。
人間誰でも初めては緊張するはずだ。どうかこの気持ちを分かってほしい。
もちろん、我ら海兵がそんなこと言い訳になどしていいはずがない。少しでも活躍して結果を残すのだ。
目の前のランチも、力をつけるためと意気込んで胃が受け付けないながらも完食一歩手前まできた。
残るはデザートであるプリンのみだ。
ちなみにこのプリン、男所帯の多い海兵専用なのか、一般的なものよりもかなりでかい。常に腹を空かせる海兵にとってはありがたいのだが、今の俺には多少苦行を含む。
水を一口飲み、いざそれに手を伸ばす。
その時。

「うわっ!?」

自分の身体と向かい合う机との隙間から、小さな幼子が顔を覗かせていた。
今の今までいなかったはずの光景に、驚いて声が上擦ってしまった。
誰だ?子供?なんでここに?というより、なんてとこにいるんだ?
脳内で高速に思考が巡り、終いには幼子としばし見つめ合う。
幼子はそのまま、堂々と俺の膝の間に身体をすっぽりと収まらせた。

「!?!?!?!?…あの、君一体なにして…?」
『ぷいん』

謎行為に身体の強張りを極めれば、幼子は一言だけ呟いて目線をデザートに向けた。

『あまあま』

続けて俺を見上げる視線。
爛々と輝く大きな瞳。
ああ、これは…。

「…俺、もう腹いっぱいだからさ。それ、よかったら食べてくれると嬉しいな」

明らか食べたいのが丸わかりの幼子に、目の前で「いただきます」なんてできなかった。
事実、あまり食べる気もなかったのだ。これはちょうど良い。
怖がらせないように、優しく言葉を紡いでやったつもりだが、どうだろうか。

『あい、あとぉ』

幼子の表情は嬉しさ爆発、といったところか。舌足らずのお礼の言葉に思わず笑った。

「はは。どういたしま、」

次の瞬間、海兵専用特性ジャンボプリンは幼子の口内に消えた。
それも、一口で。

「食い意地のはった子だなぁ…」

ところで、親御さんはど……ちょ、なに。お代わりするの?

***

海賊との戦闘は能力者がいるかいないかで天地の差が出る。

という話を誰かに聞いた。初陣で能力者に当たったらまず自分の運を呪え、という。
だから、能力者のいない俺の初陣はそれと比較するなら幸運と呼べるべきものだ。
しかし、俺はそう思わない。

「やべェ…!!最悪すぎるぞおい…!」

焦りをなんとか鎮めつつ、状況確認。
味方の頭の位置が低く、場合によってはその場で倒れて失神状態。呻き声の中、救護班さえも膝をついて耄碌している。

ここは森林が深く、賊を捕縛するために猛追をした結果、兵が散り散りになってしまった。どうやらそれが奴らの思う壺だったらしい。
奴らはこの地形に長けているのか、生い茂る木々の隙間をぬっては銃弾をかましてくる。只でさえ気づかず、視野も狭いというのに、どうやらその銃弾には猛毒が塗ってあるらしい。事実、隣にいた仲間はかすり傷であったが、今は頬に地面をつけ、虫の息である。
こちらの兵数は、敵はそんな厄介な奴らではないと上が判断したが所以か、かなり少数での出撃だった。
結果は現在進行形最悪だが。
とにかく、完全にこちらが不利な状況だ。
悲しいかな。訓練と実地の差を感じつつ、仲間の一人に、肩を貸してやる。
俺は運良くまだ毒を浴びてない。
だが、こんなに苦しんでいる仲間を見るくらいなら、いっそ身代わりになりたかったなんて、泣き言を吐きそうだ。

「こちら森の中で負傷者多数!敵の毒にやられた!救助を願う!」
"ならない。敵の捕縛を優先せよ"
「!?…どうみても兵が足らない!それに兵がいてもこの中じゃ散り散りで探す時間なんてない!!その間に皆死んじまう!」
"捕縛を優先せよ"
「ッくそ!!!」

俺は取り出した電伝虫を投げ捨てた。完全に八つ当たりだが、気にしてなんかいられない。こちらの不利な状況が伝わらないらしい。いや、受け入れないだけかもしれない。まあ考えれば分かることだ。
後少しで市民を脅かす賊を捕縛でたる距離にいるのだ。例え犠牲が多く出たとしても、この機は逃すまい。
俺は周りに目をやる。倒れた仲間はいたるところにいた。一人一人を船に持ち帰ったんじゃ、まず全員は助からない。
それに、奴らはまだきっと近くにいる。動けない俺たちにいつまた襲撃が来るかわからないのだ。

では言う通り、仲間を捨てて敵を追うか?

その時、がさり、と音が聞こえた。
木々の隙間から敵の姿と銃口が目視できた。
俺が変に動けば、肩を貸す仲間に銃弾が当たってしまうだろう。
ここは俺だけでも逃げるしかない。身体は勝手に動いた。動いたはずだったのに。

「あーもう!どうにでもなりやがれ!」

どうやら俺の本能は仲間を庇う方を優先したようだ。
固く目を閉じて、その時を待つ。
撃つなら早くしろ。痛いのは嫌いだからな。

しかし、痛みは一向に来ない。それどころか、銃弾の音さえ聞こえなかった。
閉じた目が、一瞬緩む。

「……?」
『ぷいん』
「へ?」

間の抜けた幼い声が聞こえ、思わず目を丸くした。

『ぷいんー』

信じ難いことに、目の前には俺がプリンをあげた幼子がいたのだ。

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〜コメント〜
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2017/04/12 09:54 下野純平
>>月詠 様
喜んでいただけて嬉しいです!
更新頑張ります!!
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2017/04/11 00:17 月詠
このシリーズ大好きです!!
もー可愛い( ´艸`)これからも更新頑張ってください!!
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