「あのガキ、一体どこで見つけた?」
広間にドフラミンゴの低い声が響き、ローは目を見開いた。その言葉はローにとって、事を理解するのに十分だったのだ。
「あれは人間の欲を試す選定の悪魔の実だ…見つけた時はさぞかし醜い環境にいたんじゃねェか?」
「…何が…言いてェんだよ…!」
その意図が分かり、ローは湧き上がる怒りを表すようにドフラミンゴを睨みつける。
ドフラミンゴはローの反応を見て愉快そうに笑った。
「フフ…あの白い姿…昔の自分と重ねて同情でもしたのか?」
ガンッ、という大きな音をたててローが椅子から身を乗り出す形をとる。だが椅子に括り付けられた身体では、制限があるために言うことを聞かない。
「減らず口も大概にしろよドフラミンゴ…!もう俺はテメェの記憶の中で生きるガキじゃねェんだよ…!」
目の前に憎たらしい男がいるというのに、能力者故の欠点のせいで、何もできない。イラつきともどかしさが自身を包む。
「フッフッフッ…お前らしくねェ…冷静でいられてねェぞ。それほどまでにあの女が大切か」
「テメェ…!」
煽るように言われる言葉は、まるで子供を茶化す親のようだ。それに嵌らないようにするも、成せないほどに、彼女に依存しているのを自覚した。
ドフラミンゴに対して怒りや憎悪が入り混じるが、計画の判断ミスをしたのは少なからず自身の失態も含まれている。
認めたくない悔しさの感情も増えてしまった。
「本当に面白れェなお前は…安心しろ。俺が丁重に扱ってやる」
「ふざけんじゃねェ!!ヴィダを返せドフラミンゴ!!」
ローの怒鳴り声が響き渡った時、まるでそれが合図になったように突然、片足の男が現れた。
***
目を覚まして辺りを見渡せば、とある一室にいた。
知らない場所にいることに若干の警戒を払いながら身動きを取ろうとすれば、身体が強い不快感で襲われた。鎖で繋がられた足枷が、海楼石でできているのだろうと予測できる。
囚われたことを認識するのには、十分な材料だった。
先ほど撃たれた痛みが再び身体に広がりだした時、扉が開いた。
「…よぉ。元気そうだな」
現れたドフラミンゴは笑みを浮かべながら、ゆっくりとヴィダに近づいた。
「…ローは?」
「外に逃がしてやったよ。俺は優しいだろう?今頃国の連中があいつを殺そうと走り回ってるぜ」
背の高いドフラミンゴを怒りの目で見上げれば、突然、足首に激痛が走った。
「っあ…」
そこには、切られたような深い傷跡ができていた。
見えなかった攻撃に、これはドフラミンゴの能力であるものだと分かった。
「フッフッフッ…テメェがいれば一生困らねェだろうな。オークションに出せばいくらになるか…いや、売りださずに一生ここに閉じ込めとけゃ、まず困らねェ…」
思惑から出る言葉を聞いて、ヴィダはローに出会う以前に戻った気分になった。
自分に大丈夫だ、と言い聞かせながら意思を保ってはいるが、不安や恐怖がヴィダの中をぐるぐる駆け回る。
懐かしい感覚だ、と思ってしまうことに悲しさを覚えた。
ドフラミンゴはそれが分かったのか、再び糸を操る。
「…醜かったろうな。お前が見た世界は人間の汚ねェ欲望の目しかなかったはずだ」
腕、足、顔。
浅く、時には深く傷を入れる。
奴隷の味を知っているドフラミンゴは、その楽しみ方に優越感を覚えた。
「ローのやつにも、たくさん貢いだんだろ?」
「ッ…!ローはこんなことしない!」
だが泣き叫び、涙を流して許しを請うような姿は見せない。放たれた言葉は随分と力強く、また叫びに近い声音は、自分を見失っていない証拠だ。
それがドフラミンゴの癇に障った。
頬に刻み付けるようにして深い傷を入れてから、ドフラミンゴはヴィダの首元を強く掴んだ。
ヴィダの表情が苦しそうに歪み、頬の傷から流れ出た温かな血が、ドフラミンゴの指に絡みついた。
「扱いにくい奴だな…何度言えば分かる…いっそ、内側から傷物にした方が従順になるか?」
紅い瞳を覗かれながら語りかけられた言葉に、身体がぞくりと震える。
それが面白かったのか、ドフラミンゴは再び笑みを浮かべた。
「…フフ…ようやくいい反応をしたな…まあ、それは最後のお楽しみに取っておいてやろう。どうせお前は逃げられねェんだ」
「ッ…う…」
ドフラミンゴはヴィダを掴んでいた手を離す。自分の指についた彼女の血を、舌でぺろりと舐めとった。
それを見たヴィダは、強い不快感と嫌悪感に襲われながら、掴まれた手から解放された反動で、何回か咳き込んだ。
「お前の大好きな男の亡骸の前で抱いてやるよ、ヴィダ。俺は優しいだろう?楽しみにしてるんだな」
そう言い残したドフラミンゴは、来た時と同じような足取りで部屋から出て行った。
鍵の閉まる音が鳴った後、再び訪れた静けさの中でヴィダは息を整えるように、大きく呼吸をする。
つけられた傷がだんだんと身体中に響いてきた。今の今まで、緊張していたようだ。現れた痛みがそれを主張している。
外の騒がしい音も聞こえてきた。
それは瓦礫の音や金属音、人の声などが入り混じった、不協和音になっていた。
ドフラミンゴ曰く、ローもこの中にいるらしい。
「ローお願い…無事でいて…」
想うように呟く。最悪の事態だけは考えたくない。それは自分を安心させるためでもあった。
その時だった。
「あの…ッ!」
「え…?」
突然、小さな涙まじりの声が聞こえた。
思わず辺りを見回すが、ここには自分以外誰も見当たらない。
だが確かに聞こえた。
「だ、大丈夫れすか…?」
もう一度声が聞こえた。今度は先ほどよりよく聞こえた。
ゆっくりとその方向を向けば、柵のある小さな窓が見えた。
そこには涙目で震える、小さな女の子がいたのだ。
〜おまけ〜
【キャベツに会ったロー&ルフィ&ゾロ】
ーートラファルガー・ローォ!!!僕の人気を返せ最悪の世代ィイ!!
ーーわーっ!?おいなにすんだ!!こいつは俺の仲間になったんだ!
ーーなってねェよ!!
ーーそして……ぼくの……ぼくの……っ!彼女を……ヴィダをよこせトラファルガー・ローォオ!!!
ーーあ"ぁ"!?なんでテメェがヴィダを知ってんだ!
ーーヴィダも俺の仲間になったんだ!俺のだから渡すわけねェだろ!
ーーだからなってねェし、テメェのじゃなくて俺のだ!なんなんだよテメェらは!!
ーー………。(茶番だ)
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