「ヴィダ、こっち来いよ」
「…やだ。触ってくるから」
同じ部屋にいるというのに、ヴィダは俺との距離をあけながらテレビを見ている。
まあ手を伸ばせば余裕で届くけど。
「俺はがっつり触りたい」
「セクハラは嫌いだ」
「そんじゃセクハラ以上のことがしたい」
「…いっぺん海に落ちてこいお前」
ヴィダが立ち上がった。どうやら風呂に入るらしい。
つーことは、俺も一緒に…。
………。
そんな蔑んだ目で見んなよ。お前美人だから結構迫力あんだぜ。
でもそんなとこもちょっと興奮す、あ。黙ります。いってらっしゃーい。
「はーっ、甘えてくんねェかなぁ」
てかなに見てたんだ?…動物特集?
あー確かにヴィダが好きそうなやつだ。録画しとくかなあ。
……いや、してあった。流石だわ。抜かりねェなあいつ。
『猫ってきまぐれですよね』
しばらくぼけーっとしながら見ていたら、女優の顔が映し出された。
こいつ今人気の女優だっけ?サッチが「あの子がまだマイナーだった時から応援してたから謂わば俺はあの子の旦那だ」とかわけわかんねェこと言ってたな。
まあ芸能人詳しくないからわかんねェや。
『私も猫を飼っているんですけど、機嫌の起伏が激しいんです。良い時はすごい甘えてくるのに、悪い時は威嚇されたりとか…それがすっごく寂しくて』
へー。猫って気まぐれなのか。まあそんな感じはするよな。
『でもこっちが少し身を引くと、甘えに来てくれるんですよね。なんか手のひらで転がされてる感じはありますけど、やっぱり嬉しいんです。可愛くて』
あー。なんかわかる。
なんつーか、いじけそうになる直前でいいよって言ってくれるやつな。俺単純だなーとか思うけど、もう嬉しくなっちゃってどうしようもなくなるんだよな!分かるぜ!んでもっと甘えたく…
「熱心になにを見てるんだ?」
風呂上がりのヴィダが出てきた。濡れてる髪にタオルを乗っけてる。風邪引くぞー。
「おう。動物特集!なんかすげェ共感してた」
「お前が?なんで?」
「いやあ、俺もよく分かんねェけど、なん、」
俺の出かけた言葉が止まる。
音をつけるならちょこん、という感じだ。
「…エース?」
固まった俺を見てくる目が至近距離で瞬きする。
ヴィダが当たり前のような顔で俺の膝の間に腰を下ろしている。
「…にゃーって、言ってくんねェ?」
「は?なん、」
「いいから」
「…にゃぁ」
「…あ"ー…」
濡れた頭に乗っけられたタオルを手に取る。
「俺の猫は可愛いなぁー…」
画面の中の女優と共感しつつ、ガシガシと拭いてやれば「もっと優しくしろ」と手を叩かれた。
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漁ると出てくる四次元ポケット(メモ帳)
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