終わりなく、どこまでも愛する。


From A to …


5月というのは半端な季節で、暦と気温がまったく比例していないのが、今の時代の現状だ。
その半端に沿って周りは七分丈の服を着てる奴らがよく目に入る。
だが俺はもう半袖だ。暑がりだからってのが主な理由かな。だから待ち合わせとしては割と目立つ方じゃねェかなって思ってる。

「おっせェな…」

人込みで溢れかえる大通り。俺はそこにあるよく目立つ時計台の下で不満の声を漏らした。
連絡を寄越したのはあっちだというのに、まったく来る気配がない。かれこれ30分は待っているだろうか。俺は気が長い方じゃないのにすげェ。ここまで耐えたことに拍手。
ひょっとしてなにかあっただろうか。そう思ってポケットから携帯を取り出して画面を確認すれば、同時にメール受信の通知が届いた。それをすぐに開いて文を見る。

『ごめーんエース!急にバイト入って行けなくなっちゃった(>_<)やっぱ今日なしで!』
「うわマジかよ…」

先程、突然彼女からデートに行こうと連絡が来た。
最近構っていなかったなあと思い、すぐにオッケーを出し、指定された待ち合わせ場所に赴いた結果がこれである。
なんてことだろう。ここまで来て待った意味がないのか。
だがバイトだというのなら仕方ない。俺だって食べ盛りの弟のためにバイトに明け暮れる日々を送っている。
ここは素直に了解の返事を送った。
しかしここまで来てじゃあ帰るというのも癪だ。
こうなったらサボでも召喚してどっか行くか?…って、あいつ確か今日予備校で…ならルフィでも…いやまずあいつ携帯に出るか…?

歩きながら考えていると、腹が鳴った。そういやもう昼過ぎてるんだった。
とりあえずなにか食べよう。顔を上げて辺りを見渡すと、細い通りに目が行った。そこをなんとなく覗けば、小さな喫茶店のような店が眼前に広がった。見た目は古びたようなもの、良い言葉を使うなら、古風で優雅な店だ。

「こんなとこあったのか」

これって所謂穴場ってやつ?
割とここの地形を知っているつもりだったが、こんな場所があるとは知らなかった。自身の空腹で新たな場所を見つけるとは面白い。
扉にはOPENの文字。俺の腹の虫もいい加減になんか食わせろと叫んでいる。ほぼ興味でしかなかったが、せっかくなので俺はその店の扉を開けた。

カランカランと鈴が鳴る。
中の作りはカウンターと机が4つほど。内装は外と同じように古風でお洒落な作りをしていた。
今のところ客は誰もいない。それにこじつけて「へー」と声を漏らしながらきょろきょろと見ていれば、カウンターの奥の方から足音が聞こえ、同時にハスキーな声も聞こえた。

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
「ああ、どうも……ん?」

紡がれた言葉の方を向き、現れた人物を見てみれば、パンツスタイルのウェイトレスがいた。その見た目から一瞬男かと勘違いしそうになったが、よく見れば随分顔立ちが整った女だった。その格好と発せられた言葉から予想するに、ここの店員なのは間違いないだろう。2度見したくなるような容姿だったが、俺は別の意味でその人物を凝視した。
店員もそんな反応を見てか、怪訝な顔をして俺を見てきた。
なんだかとても見たことがある。いや違う。むしろ知らないわけがなかった。

「えっと…ヴィダ…さん?」

俺は確認をするように問いかけた。
今俺の目の前にいるのはヴィダという人物。俺のクラスメートだ。
どおりでどこかで見たことがあったわけだ。
しかし違和感を解決した俺とは別に、ヴィダはまだ怪訝な顔をしたままだ。

「…どこかで会ったことが?」
「え!?」

真面目な顔で首を傾げる様子に俺は驚く。
なにせ、しらばっくれているのかと思いきや、本当に分からないといった表情をしていたからだ。

「いやいやいや!俺エース!お前と同じクラスのポートガス・D・エース!そんなに影薄いか俺!」
「ああー…」

俺が自分を指を差しながら必死に自己紹介をすれば、ヴィダはようやく思い出したような顔をした。
いやまあ確かに俺はあんたと話したことないけども、俺は結構クラスでもうるさい方だから、嫌でも目立つんじゃねェのかな?まあいいか…。
するとその様子を聞いていたのか、カウンターの奥からもう一人女性が顔を出した。

「なになに?ひょっとしてヴィダちゃんのお友達?」
「マキノさん」

マキノと呼ばれる女性は俺達を見ながら嬉しそうな顔をした。

「まあ!ヴィダちゃんがお友達を連れてくるなんて初めて!ぜひゆっくりしてって下さいね!」
「あ。どうも…」
「…まあ座ってくれ」

ヴィダに言われて俺は大人しくカウンター席へと腰かけると、マキノは楽しそうに再び奥へと戻っていってしまった。
ヴィダが俺の側にお冷を置く。

「…ここでバイトしてたんだな!知らなかったよ。結構似合ってんぜ!」
「それはどうも。私もまさかクラスメートが来るとは思わなかった。それでなにを頼むんだ?」

俺が素直な感想を述べれば、ヴィダはメニュー表を渡してきた。
お。割と量多くね?てか意外と安いな。
メニュー表に載ってる料理を見ながら色々思いを巡らせたあと、せっかくなのでこの店の大部分の料理を注文した。
すると、ヴィダはきょとんとした顔で俺を見返してきた。
へー。こんな顔するんだな。じゃなくて。

「…え。なんだよ。俺なんか変なこと言ったか?」
「……いや、お前そんなに食べるのか?というか食べきれるのか?」
「ああ!余裕だぜ!俺普段からこんくらい食うし!」

胸張って笑顔で答える。これはまったく嘘ではないし、今は空腹時だからもっと食えるだろうな。というか俺の弟のが食うぞ。
とかなんとか言ってると、小さな笑い声が聞こえた。

「…なんだそれ」

ヴィダが可笑しそうに笑った。俺はその様子になぜか一瞬体が強張ったような気がした。
その時、背後からカランカランと鈴の音が聞こえた。ヴィダがすぐに「いらっしゃいませ」と返す。客が入ってきたのだろう。ヴィダの表情がすぐに変わり、その様子になぜか勿体なさを感じた。
俺は反射的に振り返ってその客を見やり、思わず目を見張った。
見間違いだろうか。いや違う。
入ってきたのは男女の2人組。寄り添っているのを見る限り、カップルなのは間違いないだろう。しかし問題がある。
その男に寄り添っている女は間違いなく俺の彼女だった。

「すごーい。おしゃれな店ー!」
「どうぞお好きな席へ」
「ああ」

知らない男と彼女が席に着く。まさかこんなところでこんなことが起きるとは。
その時、彼女と目が合った。俺の頭の中で弁解、謝罪、逆切れ、さまざまなものが頭を過った。だがしかし、彼女の行動はどれにも一致せずすぐに俺との視線を外し、まったくなにをするでもなく、目の前の男に愛想を振りまき出した。
流石の俺も理解できた。
これで破局は何度目だろうなー、などと考えながら改めて前を向くと、一瞬ヴィダと目が合った気がしたが、すぐに視線が外れたので真意は分からなかった。

「いつものをくれ。彼女にはおすすめのデザートを」
「かしこまりました」

メニューを見ずに男が慣れた手つきで注文する。それに対して彼女が感嘆の声を上げた。

「ここの常連さんなの?」
「ああ。ここで仕事をすると捗るんだ」
「へー!かっこいい〜!」
「そうですね。いつもご贔屓にさせてもらっています」

ヴィダがカウンターでコーヒーを作りながら会話に参加した。彼女の前で自分を立たせてくれると思った男は鼻を高くする。

「奥様も大変お若く麗しい。本日は来ていただきありがとうございます」
「やだー奥様だなんて!そう見える?」

彼女が嬉しそうに言う。俺はというともう色々とうんざりした気分で、いっそ帰ろうとも思ったが、ヴィダが先程笑った笑顔と今男と彼女に向けている笑顔がまったく違うことに気付く。
どうも表情の違いが気になる。ちなみにこれは営業スマイルというやつだろうか。

「ええ。そういえば奥様は茶髪のロングヘアーにされたのですね。前回の黒髪のショートヘアもお似合いでしたが、どちらもお綺麗ですよ」
「えー?そうかし…」

流れ出るように出た言葉に対して一瞬の沈黙が店内を包む。俺は飲んでいた水を噴き出すかと思った。

「…は?ねぇそれって…」

違和感に気付いたのだろう。沈黙を引き裂いた彼女の長い茶髪が揺れる。

「なっ、なに言ってんだ!!そ、そんなわけないだろ!!ははっ…」
「だってあなたここの常連って…!浮気してんの!?」
「ち、違う!!」

男の声が焦っている。ああ、これはマジな奴だ。てかお前も浮気しただろ。俺の目の前で。
この修羅場を作った元凶であるヴィダ本人の顔を見ると、なんともしれっとした顔でコップを磨いている。その様子に俺は場違いにも笑いそうになった。

「…知らない!帰る!さいってー!」
「なっ…!ま、まって!これは…!」

その時ようやく事態に気付いたマキノがカウンターから出てくるが、既に彼女は荷物を持って店から出ていってしまった。

「あの、お客様…」
「…くっそ!ふざけんな!二度と来ねェからなこんなとこ!」

男が捨て台詞を吐いてから、彼女を追いかけるようにして出て行った。
乱暴に開けられた扉の鈴がガランガランと強い音をたてる。

「…よし。もうあの男は来ないな」

鈴の音が止みきった頃、再び静かになった空間に、ヴィダが一息つきながら言った。マキノが頬に手をつき、困った顔をしながらヴィダを見る。

「…もう…他にやり方ってものがあるでしょう…?ヴィダちゃん…」
「マキノさんは優しすぎるんですよ。…あの男の迷惑行為は前から酷かったんですから。本当だったらもっと早くに出禁にしたかった。…まあ言わずとももう来ないでしょうけど」
「そうだけど…他のお客様もいたんだし…」

そう言ってマキノが俺の方を見て頭を下げた。

「すみません、お客様。騒がせてしまって…」
「え!?ああ、いや!俺は全然平気なんで!ほんとに!」
「本当にすみません…ほら、ヴィダちゃんも謝って!お友達でもちゃんと礼儀は大事にするものよ!」
「はあ…」

マキノに言われ、ヴィダがじっと俺を見てくる。謝罪するのだろうか。
…なんか逆に申し訳ないな。俺、笑い堪えんのに必死だったんだけど。

「…さっき思ったんだが…」

しかしそれは予想の斜め上をいく。

「今の客、そんなに嫌いだったんだな。安心しろ。私もだ」

少し笑いながら言ってくるヴィダに対し、拍子抜けした俺はついに堪えられず、噴き出してしまった。


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