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花びらを君に

あれはまだ俺が中学生だった頃。

俺には緒方以外にもう一人だけ仲良くしていた他校の女子生徒がいた。

そして、つい先程のことだが俺はそんな彼女が数日前に交通事故にあって亡くなったことを知った。

俺は名字の家の人から届いた手紙に目を通して静かに目を伏せた。

今でも覚えている。

いつも笑顔で男のような口調で喋りながら俺の背中をよく叩いてきたあの姿も、ある日偶然通り掛かった近所の公園の滑り台の下で泣いていたあの姿も、無理やり俺の手を引いて名字の家に連れていかれたあの日のことも。

目を閉じればすぐに様々な表情をした彼女のことやたくさんの思い出がいとも簡単に思い出せる。

けれど、俺にそんなに沢山の思い出をくれた彼女ももうこの世にはいない。

そう思うだけで俺は無意識に流れ始めた涙に気付くなり服の袖でそれを拭う。

その時だ、ふと俺の背後に誰かがいるような気配がしたのは。

「……っ、先生?」

この時俺はこの部屋に先生が戻ってきたのだろうと思いそちらを向いた。

だが、振り向いたその場所には誰もいなかった。

でもその代わりにその場所には何故か赤い花の花びらが1枚置いてあった。

俺は静かにその花弁を手に取って小さく首を傾ける。

その時にちょうど部屋に戻って来たのは先生で、俺は先生の目の前に先程拾った花弁を何の花か分かるかと聞いた。

すると、先生は俺の手の平の上にある花弁の匂いを嗅いだと思うと不思議そうな顔をしながら俺を見上げた。

「なんだ夏目、女の元へでも遊びに行っていたのか?」

俺は思わぬ言葉に目を見開きつつその言葉に首を横に振った。

「いや、でも何でそんなことを聞くんだ?」

先生は口元をムッとしたと思うと今俺達のいる部屋の隅を見たと思うと納得したような顔つきで笑った。

「ふむ、そういうことか。……夏目」

先生は俺の手の平にその柔中手を乗せたと思うとその花をじっくりと見てこう言った。

「この花の名はがポイセチアというらしいぞ。で、この花の花言葉はいくつかあるがお前に対してあやつは『幸運を祈る』と『元気を出せ』と伝えたいらしい」

先生はそのまま俺の手の平から離れると静かにもう一度部屋の隅に目をやり鼻を鳴らすとまた部屋から出て行った。

俺は先生の見ていた部屋の隅に目を向け有り得ないとは思いながらそこにいるであろう人物の名を呼んだ。

「……もしかして、名字か?」

刹那、俺の言葉に応えるようにして小さく音を立てたのは部屋の隅に置いてあった小さな箱。

俺は彼女がこの場にいることを確信して泣きそうになるのを堪えながら笑顔をそちらに向け、口を開く。

「……ありがとな」

『……頑張れ、貴志』

俺は微かにだが聞こえた懐かしい声に涙を流しながら頷いた。



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