飲み込んだ言葉
主は最初から少しだけ僕らから距離を取っていた。
ただ、分かるのは主が僕らの事を本当に信頼してくれていないという事。
確かに主は僕らに笑いかけてくれるし、困っている事があれば相談に乗ってくれることは勿論、その対処までしてくれる。
でも、主は僕らを本当に懐に入れてくれたことはない。
そっと執務をしていた主が顔を上げて僕を見た。
「何か困り事?光忠くん」
「うーん、別にないかな?」
「そう……何かあればすぐに言ってね?手伝えることなら何でも手伝うから」
僕は主の言葉にゆっくりと首を縦に振るい笑う。
その時に僕は思った。
主は僕と誰かを重ねて見ていると。
僕は思わず口からでそうになった言葉を呑み込みその場から立ち上がる。
「ほんと、かっこ悪いなぁ……」
「ん?」
「ううん、何でもないよ。お茶を入れてくるね」
「ふふっ、ありがとう」
「気にしないで」
主は優しげに僕に視線を向けた後、そのまま書類に目を向けた。
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