過去を引き摺る君と僕
白蘭は静かに自身の部屋へ近付いてくる足音を聞きながら白く柔らかいマシュマロを口の中に含むと笑う。
すると、小さな音を立てて開いた扉。
白蘭は目の前で強がるように地面へ視線を落とし口を尖らせる名無しを見て目を細めた。
「やぁ、名無しチャン。綱吉くんとの再会はどうだった?」
「別に何ともないです……」
如何にも、何かありげな彼女の表情。
白蘭は無言でその場から立ち上がると自ら近寄った彼女の口へとマシュマロを1つ投げ込んだ。
途端、大きく目を見開き口をもぐもぐと動かしそれを飲み込む彼女。
「美味しかった?」
「……はい」
未だに晴れないその表情。
白蘭は困ったような笑顔を浮かべると彼女の頭に手を乗せた。
「いつまでも彼らの事を引き摺ってても君が辛くなるだけだし、早く忘れた方がいいよ♪」
「……それは分かってるんですけど、ここに来るまでの数年間を彼らと過ごしてきたと思うとなかなか忘れられなくて」
「……まあ、それもそうだね。でもそれなら本当にこのまま彼らを殺しても平気なの?」
「……今日はその為のけじめを付けるために私は彼に会いに行ったんです」
「昔は愛してた綱吉くんに……?」
彼女は白蘭から少しだけ視線を逸らし小さく頷く。
「そっか……」
けれど、白蘭は彼女がいくら昔に沢田綱吉という人物を愛していたと言っても自身を裏切ることはないのは分かっている。
だから、彼は優しく甘い言葉で目の前の少女を少しずつ自身のものにしていくのだ。
「……僕は絶対に君を傷付けも裏切りもしない。綱吉クン達に傷付けさせたりしないよ」
白蘭は自身の胸に顔を埋めた名無しの頭を唯優しく撫で続けた。
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