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桜の木の下で

真田幸村という人はとても変わったお人だと私は思う。

理由はいたって簡単。

私のような町娘に笑顔で声をかけてあまつさえ時折だけれど小さな甘味の入った箱や、簪などをくださるからだ。

今だって私が立つ場所から少し離れたところからふわりと微笑みながら声を掛けてくる。

「おぉ、名無し殿ではありませぬか。 またここの桜を見にきたのでござるか?」

私は彼の言葉に頷き静かに桜へ目を向ける。

「はい、ここの桜だけは何故か他の桜よりも一層華やかで美しく見えてしまいますので」

すると、彼は私の傍へとやって来て私の見つめる桜の幹に手を伸ばし言った。

「そうでござったか。……実をいうと、某も名無し殿と同様にこの場所の桜だけは他の桜が咲く場所とは同様に見えないのでござる」

パチリと交わる彼の焦げ茶色の瞳と私の瞳。

暫くして、目の前の人の顔が音を立てて朱に染まった。

「も、申し訳ありませぬ!別に下心などはないので嫌わないでいてくれると嬉しいというかなんというか……」

挙動不審に瞳をユラユラと揺らし、わたわたと慌てるその姿。

私は我慢出来ずに吹き込むと口元を緩める。

「分かってますよ。幸村様がそんな人でないことなんて」

彼は本の少しの間唖然と私を見つめると桜の幹から手を離し、私の数歩手前で立ち止まり俯いた。

「幸村様?」

少し不安になり名前を呼べば勢い良く挙げられたその面。

彼は真剣な表情で私に向き合い間合いを詰めてくる。

「某、先程下心がないなど申しましたがそれは嘘でございまする。そ、某は……貴殿に、貴殿に恋をしております!!」

グッと目の前に詰めてきた彼と私の手を包む大きな掌と暖かな体温。

幸村様は焦ったように上擦った声で私へ言った。

「へ、返事をお聞かせ願いたく!」

「えっと、まずは友人からでどうでしょうか?」

彼は背後に犬の耳と尻尾を現せると勢いよく頭を上下に振った。








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