ついこの間、転校生が来た。




名前は、


















六道 骸

























「宜しくお願いします」





そう言って微笑んだ彼を見て、クラスの大半の女の子は きゅんっ って顔をしていた。


まぁ、端正なお顔ですがね。



私は全く理解できない。
寧ろ彼はなんか胡散臭い。

あの笑顔も、ひとつひとつの言葉も。



そして、あの髪型も。




何もかも胡散臭い。
だから私は 六道 骸 という人間とは関わらないと決めた。

















それなのに




















私は生徒会役員を務めている。
表面上は真面目に見えるから、先生から頼まれた。やってみたら特に大変ではなかったので一応仕事はしっかりしている。







ある日突然担任から呼び出され、何かと思えば長々と私の仕事ぶりを褒めだした。
全く訳わかんない。どうせ何か裏があるんでしょ。

嫌な予感しかしない。


『先生、言いたいことがあるならはっきり言ってください』


そう言うと担任は少し驚いて、 いやぁ苗字には敵わないなぁ などと言ってから、言い辛そうに話し出した。
























放課後の廊下は人も少なく、静かだ。

しかしその静けさの中でさえ私は落ち着けられない腹立たしさを感じていた。



何故こんなことになったんだ。


よりによってあの 六道 骸 の髪型を注意しなければならないなんて。



正直言って話したことなんてない。
一番最初に話すことが身だしなみの注意って…私の印象最悪じゃないの。
自分で言えないから私に頼んだんだ、あの担任。だってチキンだから。






そんなことを思いながら教室にある荷物を取りに行った。



そろそろ部活動も終わるころだ。荷物を取って、さっさと帰ろう。




教室の扉を開ければ、ひとつの影。


誰も居ないと思い込んでいた私は少し驚いたが、何も言わずに荷物を取って教室を出ようとした。











「遅くまでお疲れ様です。苗字名前さん」












警告。早く帰れ私。早くこの場を立ち去れ私。












「生徒会の仕事ですか?いつもしっかりしていますよね、尊敬します」







さようなら、そう言って帰ろう。注意はまた改めてすればいい。





「でも、仕事のしすぎは好ましくありませんね。ほら、こんなに肩が凝っている」


『っ――!?』


突然背後から聞こえた声と、肩に置かれた手に驚いて声が出せなかった。




慌てて距離をとると、六道 骸は独特の笑い声をあげる。





『…何が可笑しいの』


明らかに不機嫌な口調で言った自分の声が予想外に低くて、自分でも驚いた。



しかし彼はその余裕を崩すことはなく、寧ろ更に穏やかな、胡散臭い笑顔を浮かべた。



「すみません。あまりにも可愛い反応でしたので」





この人は…頭が沸いてしまったんだろうか。




可愛い




確かに彼はそう言った。
誰が?私が?ありえない。



『からかうなら他をあたって』



やっぱり彼は解らない。胡散臭い笑顔の裏で何を考えているのか読み取れない。


「からかってなんていないんですがねぇ…」



そう言って彼はまた笑う。





彼が笑うと、微かに揺れる頭のフサに目が移る。


……もう言ってしまおう。




『…あのさ、その頭どうにかしてくれない?校則違反なんだけど』


そう言うとパイナッ……六道 骸は笑うことを止めたが動揺する様子はなく、再び柔らかい表情になる。




「それは知りませんでしたね」


『違反は違反なの。早めに直してよね。私が担任に五月蝿く言われるんだから…』





窓によって切り取られた四角い夕焼けが眩しい。彼の哀愁を帯びた笑顔に、夕焼けが似合っていると感じた。










「なら、名前さんがどうにかさせてみてください」



『…は?』



「僕は変える気は全くありませんから」






なんて挑発的な目。腹立たしい筈なのに、その不思議なオッドアイから目を逸らせない。


『…絶対そのフサ、私が貰う』



「クフフ…そうこなければ、面白くありませんよ」







橙色の世界で向かい合う。






「どうも僕は、貴女に好かれていないようですね」


『…』



この男は気付いていたのか。
まぁ、気付かれているだろうとは思っていたけれど。


「気付いていましたか?転校初日、此処で挨拶したときに初めて貴女を見て…目が離せなくなりました」



『……は?』



何を言い出すんだこの男は。
確かにあの時一度目が合った気はしたけど…



「他の人たちと違って、貴女は僕に興味が無さそうでしたし」


『あぁ…そういうこと……』


「僕は他人に執着したことはありません。他人という存在に対して感情を持ったことも無いですしね。僕が興味があるのは、世界だけ」


『世界…?』




世界って、どの世界?

ますます解らない。

あなたが、六道 骸が欲する世界とはどれほどのものなんだろう。



「だから貴女は、僕の世界の一部だと思ったんです」




私がこの人の欲する世界の一部。

考えても理解なんて出来ない。理屈じゃない。理解したところで、私も彼も何も変わらない。



『…貴男が欲する世界って、どんなもの?』




「それは僕にも解りません。ただ…」


















「僕は貴女を欲している」


















頬に添えられた貴男の綺麗な手に、世界が収まるんだろうか。







それは少し、見てみたいかもしれない。














世界が貴男のものになる瞬間を、見たい。




あぁ…結局、この男に丸め込まれたんだ。




こんな簡単に貴男に興味が湧くなんて。



















再びオッドアイに捕らえられれば、











六道 骸という存在が生み出した








迷宮に、堕ちる





























(先ずは)
(そのフサを頂くから)
(ちょ、なんで鋏持ち歩いてるんですか)









あとがき→





つぎ



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