やっと道路の雪がとけてきた。
山本と一緒に初雪を見たこの道も、また雪のない道に戻ろうとしている。
寒かった冬ももうすぐ終わりかと思うと寂しいような嬉しいような、複雑な気分。
昨日まではブーツを履いていた私も、今日から久しぶりにローファーで登校中。
もうすぐ春だなー…
春になったら、みんなと一緒にお花見したい。
並盛の穴場はちゃんと抑えてあるんだから!
そんなことを考えながら、足取りも軽く学校へ向かった。
「おはよー」
『おはよー』
学校に着いた私は足に違和感を覚えて、トイレでストッキングを脱いだ。
『うわ、やっぱり』
案の定、私の踵は靴擦れしてグロテスクになっていた。
『どうりで痛いと思った……ちくしょーローファーのばかー』
どうしようもないので手持ちの絆創膏を貼り、再びストッキングを履いて一日を過ごした。
「名前!今日俺部活ねぇんだ!一緒に帰ろーぜっ」
『えっ!?う、うん!』
山本と二人で帰るなんて久しぶりで、凄く嬉しい。
…にやけてないよな。うん。
下駄箱からローファーを出して再び履くと、やっぱり踵が痛かった。
でもせっかく山本と帰れるのに、バスでなんて帰りたくない。
ちょっとでも長く一緒に居たい。
我が儘だけどほんとにそう思うから、踵の痛みは知らんぷりして山本と並んで歩き始めた。
凄く悔しいけれど、私と山本の身長差は10pあるかないか。
だから大幅に歩幅が違ったりしない。二人で歩いても、お互いに気にせず歩ける。
ちょっと寂しいけど、山本に気を使わせてしまわないからいい。
しかし今日は違う。
知らんぷりしているとはいえ、痛いものは痛い。
一生懸命踵を庇いながら慎重に歩く私は、どうしてもいつもより遅くなってしまう。
山本は無意識なのかわかっているのか、私と速度を合わせてくれている。
あぁ…ごめんなさい山本…!
「そんでその時――…」
『へぇ…』
山本が話してくれてるのに、その間にも踵の痛みが強くなって返事すらまともに出来ていない。
最低だ私………!
そう思ったとき、突然山本が黙った。
『や、まもと…?』
それと同時に踵の痛みが激しさを増し、私は遂に歩みを止めてしまった。
山本は相変わらず黙って此方を見ている。
まずい。これは絶対私の所為だ…!私が山本の話をちゃんと聞いていなかったから、山本は気分を悪くしてしまったんだ。
謝らなくちゃ、謝らないと……!
『…ぁの、その、山本…えっと………』
駄目だ。山本の反応が怖くて言い出せない。こんなんじゃ呆れられて当然じゃない…
『あ、のね山本…!「名前さぁ、足痛いのか…?」……え?』
「足、痛いのか?庇うみたいな歩き方してるし、さっきからずっと堪えるみたいな顔してるぜ?」
山本はいつもの笑顔とは反対に、眉を下げて心配そうな顔で私を覗き込んだ。
私はびっくりしすぎてしばらく何も言えなかった。
そんなにわかりやすい顔をしていただろうか。
でも、山本が気付いてくれたことに不謹慎だけど喜びを感じてしまった。
『えっ、と…実は、久しぶりにローファー履いたら靴擦れしたみたいで……でも大丈夫!』
山本に迷惑をかけるなんて嫌だ。
私は精一杯笑ってまた歩き始めた。
それでもやっぱり踵は痛くて、情け無いけど変な歩き方になってしまう。
あ、やばい。さっきより痛い。ちょっと歩けないかも…
そう思った時、突然私は宙に浮いた。
「無理すんなって。いてーんだろ?」
明らかに近すぎる山本の笑顔。
私は山本に、所謂"お姫様だっこ"をされているみたいだった。
『え、ちょ…ちょちょちょっと山本!?』
おかしいでしょうこれは。
『おおおお重いから下ろして!!』
「ん?別に重くないぜ?寧ろ軽すぎなんじゃね?ちゃんと食ってんのかー?」
『う、嘘!とにかく恥ずかしいから下ろして!!』
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!
誰か来たらどうするの!?
「じゃ、今日は名前の家まで送るな?」
いつもは途中の分かれ道で別れる。
山本は何事も無かったように再び歩き出した。
『え、待った待った待った!!このまま帰るの!?』
家まで大人しくお姫様だっこされてろっていうの、この人!?
「もちろん!名前の靴擦れ悪化したら悪いじゃん」
いえ寧ろこの状況を誰かに見られることの方が悪いよ山本!
「んじゃ、帰るぜー」
『冗談でしょ!?ひとりで歩けるから!!』
私の叫びは、楽しそうな山本には聞き入れてもらえないみたいです。
お姫様なんて柄じゃないけれど
たまにはいいじゃない!
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