木々の新芽が膨らみだした頃――…


暦上は春と言ってもまだまだ寒いし、地方では雪も降ってる。



コートを羽織り、手袋をはめ、マフラーを巻いた俺たちは





『綱吉くんはやくー』



















海に来ている









事の始まりは数日前、名前ちゃんが海に行こうと言い出したこと。

なんで?って聞いたら、ないしょ!って可愛い笑顔で返されたから、結局訳もわからずこうして2人で海に来たけど…







何故海なんだ……






海風が強くて凄く寒い。
しかも海は大荒れに荒れている。

いい景色とは言えないよなぁ…

大体、今の時期の海なんて何かいいことあるのか?
寒いし空は曇ってるし砂浜は流れ着いた海藻やゴミであんまり綺麗じゃないし…






でも数メートル先の名前ちゃんは凄く楽しそうに砂浜を走ったり波との無限追いかけっこをしたりしてる。







まぁ名前ちゃんが楽しいならいいか………






俺も大概甘いよな。
…惚れた弱みってやつか。









それにしても寒い。

マフラーに顔をうずめて、縮こまる。足元には、夏の名残のホタテの貝殻が。


ゴミは持って帰れよ…



そう思ったときだった。




『綱吉くん綱吉くん!』


「え?」


突然呼ばれて顔をあげたら、さっきより少し近付いた名前ちゃんが今まさに何かを投げんと振りかぶっていた。



「え!ちょ、名前ちゃん!?」


『くらえーぃ!』




直後、お腹の辺りに沢山の細かい砂が。


キャッチしようと身構えた俺の焦りは全く無駄なものと化してしまった。



『うわーい命中ー!』



名前ちゃんってばあんなに喜んでるよちくしょー。



「砂は無いだろ砂は!」



『砂かけ美人とお呼びー』


え、微妙。

確かに名前ちゃんは美人……いや、可愛いけどさ。



俺も足元の砂を掴んで振りかぶる。
投げる気なんて全く無いけど。





『えへへー当ててみなーっ!』





名前ちゃんは砂をかけられまいと砂浜を逃げ出した。




「ちょ、待って!」





反射的に俺も名前ちゃんを追いかけた。









状況的には


恋人同士が砂浜で追いかけっこ

まさに王道









「つ、かまえ……たっ!」

『う、わぁ!!』




名前ちゃんを俺の腕の中に捕まえれば、後はこっちのもん。





「…よくも、砂…かけた、な」

『だっ、て…綱吉くん、楽しくない…みたいだった、から』


「え、」





2人して息切らして、上がった心拍数はお互いに伝わってしまいそうなほど早くて。


腕の中の名前ちゃんは、俺が海を楽しんでいないから心配してくれたみたいだ。




呼吸が落ち着くのを待って、俺は名前ちゃんを強く抱き締めた。





『綱吉くん…?』


「楽しくないはずないよ。」





確かに海自体は楽しんでいなかった。
でも海辺ではしゃぐ君は凄く可愛くて、見ているだけで楽しい。




「名前ちゃん、可愛い」


そう言ったら名前ちゃんは横目に見える夕焼けと同じくらい真っ赤になって顔を隠してしまった。



そっと彼女の手を包んで顔を覗き込む。



『綱吉くん恥ずかしい』


「だってほんとだもん」





真っ赤な夕陽を背景に



2人の影は重なった



















「…ねぇ名前ちゃん、何食べてるの?」


『塩キャンディ』










海だからね!とか言われても。
…めっちゃ口内炎しみたんだけど。








まぁ…たまにはこういうのもいい………………のか、俺?




「ねぇ、何で海に来たかったの?やっぱり内緒?」


『え、綱吉くんと砂浜追いかけっこしてみたかったから』







まさに王道



でも君と一緒なら






何だってよくなっちゃうんだ











王道?それがどうした!







あとがき→





つぎ



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