「おやすみなさい」
「あぁ。おやすみ」

襖一枚隔てて、景時様に声を掛けた。


02


冷えた廊下を足音を立てないように歩く。
私と景時様は別々の部屋で寝ている。
景時様がそうしたいとおっしゃったから。

「………ふふっ」

自嘲。嫌われすぎて逆に笑えてくる。
私の何がそんなに気にらないのでしょうか。
顔、髪、体型、性格…。
顔は、もうどうしようもない。
髪色はどうしようもないけれど、髪の毛を短くすることはできる。
体型は痩せるならまだしも、胸の大きさが気に入らないのだったらどうしよう。
そんなすぐに大きくなるものでもないし…。
性格は直そうと努力することはできるけど…そもそも景時様に聞くことから始めないと。
私のどこが駄目ですか?
なんて、聞く勇気は私には…ない。

「あ、満月…」

ふと空を見上げれば、満月が暗い闇を照らしていた。
じっとそれを見つめていると、次第に視界がぼやけてくる。

「っ…」

泣くな、泣くな、泣くな。
ぎゅーっと目を瞑って上を向き、涙を止める。

「はぁ…」

寒い。
早く部屋に帰ろう。




「うぅ…」

春が近付いていると言っても、まだ寒い。
布団が氷のように冷たい。

「寒いです…」

愛しあう夫婦(めおと)なら、こんな寒い夜は一緒の布団に入って、お互いに体を温めあうんだろうな。
などと考えてまた目頭が熱くなった。
景時様と私がそんなこと…。
夢のまた夢。

「ふぅ…」

布団に入り、宙をぼんやりと眺める。
思い出すのは私を見つめる冷めた目。
身も心も凍る。
政子様…。
私はいったいどうすれば…。

「っ、はぁ…」

私はいつまで景時様の妻でいられるのだろう。
いつこの屋敷を追い出されるだろう。
明日が、怖いです…。





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