はじめましてちよです。
私はこの度梶原景時様の妻になりました。
政子様の紹介で、お見合いという形で。
「大丈夫、景時は優しい殿方ですわよ。ふふふ…」
と政子様はおっしゃってたけど…
01
「あ、あの、景時様…」
「…ん?何?」
「夕餉ができました…」
「…わかった」
書室にてなにやら文を書いている景時様を呼ぶ。
きっと仕事場で終われせることのできなかったものを、持ってきているのだと思う。
景時様は軍奉行だから。
お忙しい方だから。
スッと襖が開く。
部屋から出てきた景時様を見上げれば、景時様も私を見下ろしていた。
廊下に正座している私を見下ろす翠色の綺麗な、冷たい目…。
「ほら、行くよ」
「…はい」
景時様の後ろを付いていく。
ぺたぺたぺた。
足音が廊下に響く。
会話はない。
「………」
「………いただきます」
私と景時様は絶対に一緒に食事をする。
そして必ず私から最初に食べる。
景時様にそう頼まれたから。
私の作るご飯はとても警戒されている。
…毒など入れていないのに。
「…っ」
この時間が一番辛い。
悲しくて、苦しくて、ご飯の味がまったくわからない。
美味しく作れているのか、それとも不味いのか。
景時様を見ても、ただ無表情。
カチャカチャと、食器の音だけが部屋に響く。
「…ご馳走様」
「…はい、お粗末さまでした」
景時様が音もなく立ち上がる。
きっと湯浴みに行かれるはずだ。
「…あ、あの」
「何?」
襖に手をかけた状態で私を振り返る。
どうして?
どうしてそんな冷たい目で私を見るのですか?
「な、なんでもないです…呼び止めてしまって、ごめんなさい」
「………」
景時様が部屋を出て行った。
「また…聞けなかった」
今日のご飯美味しかったですか?と。
あの翠色の目が、私を拒絶する。
「っ…」
ぐっと唇を噛んで涙を堪える。
わからない。
わからないです。
景時様。
どうして。
私をそんなにも拒絶するのですか?
わからない…。
ぽた。ぽたぽた。
握りしめた拳の上に涙が落ちた。