今、だけ…一寸の間だけでいいので…手を、景時様の手を乗せたままに…してください


07


あ、ああぁぁああ…。
いくら熱がでて頭が働いていなかったとしても、よく言えたな、私。
思い出す度に恥ずかしくて、恐れ多くてたまらない。
今言えと言われても絶対に言えない。
恐ろしくて言えない。
でも、

「えへへ…」

あの時の景時様は優しかった。
私が風邪をひいていたからだと思うけど、初めて、あんなにも近くで景時様を感じた。
すごく。
すごく嬉しかった。
もう二度と無いかもしれないな…。
うん、一生忘れない。

「…っと、はやく掃除終わらせないと」

夕餉の買い物にも行かなければ。
中断していた廊下の雑巾がけを再開する。

「うぅ…水が冷たい…」

あれから1日で私の風邪は治った。
弁慶という薬師の腕がいいのだろう、薬がよく効いた。
それと…景時様が看病してくれたからだろう。なんて。
景時様の手の感触を思い出すと、顔がボッと火が出るかと思うほど熱くなる。

「恥ずかし…」

何かお礼がしたい。
景時様にも、弁慶さんにも。
でも景時様が何を喜んでくれるか知らない上、弁慶さんが誰なのかを知らない。
弁慶さんのことは景時様に聞くしかないか…。
でも、景時様自身については…。

「聞けない…絶対に」

別に、君に言う事なんてないよ。
って言われること間違いなし。
あの冷たい目と無表情で言われるに違いない。

「………」

ぶるっ。思わず震えた体を抱きしめる。
うぅ…想像しただけで泣きそう。

「やっぱり自分で考えて買うしかない」

景時様が、殿方が喜ぶもの…。
うーん。
刀?
でも景時様は特殊な武器を使っているから、刀は駄目だ。
あとは着物とか…?
いやでも景時様の着物は普通のモノとは少し違う。
何かこだわりをもっているのかもしれない。

「…誰か相談できる人もいないしなぁ」

鎌倉から京に来たばかりの私には、ここに相談できる友達もいない。
朔様に相談できたらいいのだけれど、朔様は鎌倉の実家に戻られた。
相談、出来る人ほしいなぁ…。
できれば景時様をよく知っている人に出会いたい。
景時様の仕事場に行けば出会えるかもしれないが、行くわけにもいかない。
きっと何しに来たの?と嫌な顔をされてしまう。

「なんとう八方塞がり…」

私は頭を抱えた。
はぁ…。
何かお礼の物を渡して少しでも仲を縮めたいのだけれど。

「よし、今度市で探してみよう」

あ、弁慶さんのお礼も買わないと。
忘れそうだ。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -