Pretty Poison Pandemic | ナノ





17位、ぷりぷりプリズナー。
16位、ジェノス。
15位、金属バット。
14位、タンクトップマスター。
13位、閃光のフラッシュ。
12位、番犬マン。
11位、超合金クロビカリ。
10位、豚神。
9位、駆動戦士。
8位、ゾンビマン。
7位、キング。
6位、メタルナイト。欠席。
5位、童帝。
4位、アトミック侍。
3位、シルバーファング。
2位、戦慄のタツマキ。
1位、ブラスト。欠席。

ヒーロー協会の最終兵器とも称するべき、S級ヒーローのほぼ全員が揃い踏みだった。

「んで、今回はなんの集まりなんじゃ」
「知らないわよ! こっちは二時間も待たされてるのになんの説明もなしよ!」

タツマキが声を荒げている。もともと気性の穏やかでない彼女ではあるが、長らく待ちぼうけを強いられて相当イライラしているようだ。他のメンバーも似たような状況なのだろう──室内の空気はお世辞にも和気藹々とは言えなかった。むしろ険悪と言ってもいい。

そんな気まずい沈黙のなかで──脂汗をだらだらと流し、あからさまに恐慌している者がひとり。

(やばいやばいやばいこれはマジでやばい絶対あたしがいていい空間じゃないなんでこんなことになってるんだっけ本当やばいマジでやばい絶対やばい)

その錚々たる面々のオーラに圧倒されて、唯一のA級であるシキミはぷるぷると子猫のように震えていた。現状を考えれば当然の反応なのだけれど、しかし──彼女の隣にいるB級63位のサイタマは普段通りの調子で「お茶もらえる?」などと、まったく憚る気配がない。その奥に座っているジェノスも鉄面皮を崩しておらず、一体なにを考えているのかわからなかった。

そんな中──ヒーローたちがぐるりと囲む長方形の卓の、上座の位置に立っていた協会幹部が口を開いた。

「……私は今回の説明役を任されたヒーロー協会のシッチだ」

シッチと名乗った白髪混じりの男性は、重々しい口振りで続ける。

「メタルナイトとブラストは居場所がわからず連絡も取れない状況にあるらしい。これ以上待っても埒が明かないので緊急集会を始める。早速、本題に入らせていただこう」

どん、とシッチは両手でテーブルを強く叩いた。

「ヒーロー界の頂点に立つ君たちに集まってもらったのは、外でもない。今回は地球を守っていただきたい」

ごくり、とシキミの喉が鳴る。
地球を守る、とは──どういうことなのか?

「今回ばかりは超人揃いのS級メンバーでも命を落とすかもしれん。逃げるのも勇気だ。今なら辞退してもS級に籍だけは残してやる。だが今から言う話を聞いた者は逃がすわけにはいかなくなる……その場合は事が終わるまでこちらの方で軟禁させてもらう。混乱は避けたいのだ。皆──話を聞く覚悟はいいか?」
「その話……マジで俺たちを集めるだけの内容なんだろうな、オイ……」

金属バットが凄味を利かせた低い声で言う。

「こっちはわざわざ妹の大事なピアノの演奏会を抜け出してきたんだ。大したことねえ話だったらこの本部をぶっ壊すぞコラ」

額に青筋を立てて、どうやら彼は心の底から本気で急に呼び出されたことに憤慨しているらしかったが──

「……大予言者シババワ様が、死んだ」

シッチの言葉に、吠えていた口を噤んで押し黙った。

「あのシババワが……!? 誰かに殺されたのか!?」
「いや……半年先までの未来を占っていたところ、気が動転したのか息が荒くなり咳が出たため、のど飴を口に入れたら喉に詰まって死んだらしい」

コントかよ。
と突っ込みたいところではあるけれど──確かにそれはS級ヒーロー全員を集めて緊急会議を開くに足る重大な事実だ、とシキミは思った。

「……なあ、シキミ、ちょっと」
「? なんですか、先生」
「シババワ様って誰? ヒーロー?」
「えっ、先生、シババワ様を知らないんですか? 有名な予言者ですよ。地震とか台風なんかの災害から、怪人の出現までぴたりと当ててしまう……大予言者です」
「シババワ様の予言なしでも乗り越えてきた窮地はたくさんある。それでも我々がシババワ様を身辺警護し、特別扱いしていたのは──その予言が百パーセント的中するからだ。問題の核となるのは、シババワ様が最後に遺した大予言文!」

シッチが懐から折り畳まれた紙切れを取り出した。

「のど飴を詰まらせながらも書き遺してくださったこの小さなメモ……百パーセント訪れる未来がここにある。……これだ!」

そこに記されていたのは──



「「「ち……“地球がヤバい!?」」」




至極あっさりとした、ただの一言のみだった。

「なにそれ? くだらないなあ、ボク塾あるから帰っていいかな?」

拍子抜けしたらしい童帝の台詞に、しかしシッチは神妙な面持ちのまま、どこか諭すような口調で言葉を返す。

「……童帝くん、君は十歳だったかな? 天才少年と聞いていたが、この危機を認識できないようでは所詮はお子様だと言わざるを得ないぞ」
「! なんだと……?」
「いいかい──よく聞きたまえ。シババワ様の予言は百パーセント当たる! そしてこれまでいくつもの大災害を予言してきた。洪水、危険生物の発生、大地震……その中には多くの命を奪う結果となったものもある。しかしシババワ様が“ヤバい”と表現したことは今まで一度もなかった……!」

再び盤上を強く掌で打って、シッチは怒鳴る。

「大地震や──鬼や竜レベルの怪人が襲来するよりも“ヤバい”ことが起きようとしているのだ! それもこの半年以内に!」
「わかったけど、半年以内じゃいつ来るかわからないね。対策もやりようがない」
「確かにその通りだ! だがしかし! 半年以内に戦う覚悟はしておいてくれ! 非力な凡人を代表して言うが、君たちだけが頼りだ」
「……半年以内ってことは、明日かもしれないし、今日かもしれないな」
「ふむ! ……その通りだが、お前は誰だ?」

いきなり口を挟んできた、呼んだ覚えのないハゲた頭の青年に、シッチは懐疑的な視線を向けている。しかしサイタマは名乗ることもなく、それどころか不敵に口元を吊り上げて笑った。

「……来てよかった」

こんな重大なトップ・シークレットを聞いてなお、そんな表情を浮かべられる師に──ほんの少しだけ、シキミはぞっとしてしまう。彼は一体なにを見て、なにを感じて、なにを考えているのだろう。

と。
そのとき。

凄まじい轟音とともに──本部全体が、大きく揺れた。

「な……!?」

とても自然現象では有り得ない、不規則な衝撃が断続している。その場にいた全員が浮き足立って、席から腰を上げた。

「これは……この建物が攻撃されている!?」
「そんな馬鹿な! ここはヒーロー協会本部だぞ!?」

シッチが慌てて通信端末を手に取って、どこかと連絡を取り始めた。外の状況を確認するためだろう──シキミは固唾を飲んでその成り行きを見守っていた。するとシッチの手から通信端末が滑り落ちて、彼は両手で頭を抱えて白い毛の混じった髪を掻き毟った。恐怖と動揺のみに染まった彼の口から、絶叫が迸る。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

何事かと──皆の視線がシッチに集中した。

「まさか今すぐ予言のときが来るなんて誰が想像できる!? 一瞬で……A市が! この街が破壊されたらしい!」
「おい! この建物はなぜ無事なんじゃ」
「この本部の建設はメタルナイトに依頼して並のシェルターよりも強固にできている! だが……外は壊滅だ!」
「道理で窓もねえわけだ。ここは怪人も寄せつけない要塞だったのか」
「……とりあえず外に出て敵を確認してみなきゃ。予言のヤツかどうか判断できない」
「先生! 外に行き──」

ジェノスがサイタマを振り返るが、もうそこに彼の姿はなかった。代わりに──天井に、人間ひとりが通れるサイズの大きな穴が空いている。

「ジェノスさん! あたしたちも早く外に出ましょう!」
「そうだな、……っ! ヒズミは!? あいつは今どこにいるんだ!?」
「! あ、ヒズミさんなら、ベルティーユ教授のところへ挨拶に行くと言っていましたが……」

ということは──この本部内にいるのか。

ここは桁外れの防御力を誇る砦だとシッチは言っていた。それが事実なら──いや、都市ひとつ滅ぼすほど圧倒的な威力の猛攻をこうして耐えているのだから、紛れもなくそれは誇大でも誇張でもない事実なのだろう──ヒズミも無事だろう。そう判断して、ジェノスは“危険因子の排除”を最優先事項に定めた。既に出て行った者も幾人かいるようだ。彼らを追って、他のヒーローたちとともに本部の外へ──正体不明の怨敵のもとへ向かう。