学校からの帰り道に送ってもらった時とか、デートの別れ際とか。
先輩は私の頭をポンと撫でて、おでこを寄せて、少し鼻をすり合わせる。そのキスよりも恥ずかしい距離に真っ赤になると、先輩は満足そうに笑って私の頬に唇を寄せる。そして、肌に触れそうで触れない距離で、囁くのだ。
「また、明日」
先輩との"さよなら"は、いつも心に冷たい風が吹き抜けたような寂しさを残すから、きらい。
もう今日は会えないのに。もうあなたは帰ってしまうのに。それなのにこんな甘い囁きだけを残していくのは、卑怯だと思う。
まだお互い学生同士で、世間からみたらなんてことない普通のカップルなんだろう。でも私はとても真剣に先輩が好きで、先輩も同じように気持ちを返してくれている。だからずっと一緒にいたい、って思うのは決してバカな考えなんかじゃなくて、当然なことだと思う。
たとえ今それがかなわなくても、いつかは、と願うのは構わないでしょう?
そんな淡い希望を胸に私は先輩に寄り添って、まだ見ぬ二人の幸せな未来を描いていた。
でも、先輩はとても、卑怯な人。
「俺、留学するんだ」
卒業式の日に告げられたのは、予想だにしなかったこと。
ねぇ、先輩はこれから先もずっと私の先輩で、だから私より1年先に高校を去ってしまうのは仕方ないって。でも、来年になればきっと私が追いかけて、そして追いついて見せるからって。一緒に約束していたでしょう?
「親の転勤っていうのが理由の一つ。だけど、これは俺自身の意思でもある」
ねぇ、ずっと一緒っていう幻想を抱いていたのは私だけ?このまま変わらずに、二人で寄り添って生きていけるって信じてたのは私だけ?
「多分、当分は帰ってこない」
風が吹いて、私と先輩の間を桜が舞う。何度だってこのシーンを想定して、先輩の卒業式だからって泣かないように練習したのに。でもそんなの、先輩は一瞬で消し去っちゃうんだね。
「だから、お前とは」
――もう、お別れだ。
その瞬間に目を閉じた私は、ただの臆病者。先輩がどんな顔で、どんな表情で、どんな眼差しで。どんな気持ちで"さよなら"と言ったのか、最後まで見届ける勇気が、私にはなかった。
決して何か高価なものを望んでいたわけではなかった。身に余る何かをほしがっていたわけではなかった。ただ、先輩のそばにいたかった。
先輩の"さよなら"は、いつも甘くて、だから寂しくなってしまって。でも、こんな身を裂くような寂しさを残す"さよなら"は、もう二度と言いたくない。
「さよなら、先輩」
さよなら、
初恋。
遠くへ行ってしまった貴方へ
(もうさよならと言うことすら)(叶わないなんて)
-end-
提出→
joie様
お題→『最後のさよなら』
桜宵 (
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