今年で15歳になる僕たちは、おおよそ16年前に出会った。そんな出会い頭の言葉なんて覚えてないけど、でも多分こんな感じ。

「狭いね」「狭いな」

一人分の空間を二人で漂い、僕たちはこの世に生を受けた。


* * *



「海(かい)、彼女できたよ」

「空(くう)、デートしてきたよ」

学校からの帰り道、僕たちはいつも通りに"共有"を始める。右、左、右、左。踏み出す足も、ステップの幅も、何から何まで全部一緒。

「彼女、海の靴箱にラブレター入れたんだって」

「空、金曜に映画デートの約束忘れてただろ?」

「結構好みだったからオッケーしておいたよ」

「映画はつまんなかったけど帰りに食べたアイスはおいしかった」

全部一緒の僕たちは、人やモノの"好み"も当然一緒。どっちかの恋人は2人の恋人で、どっちかの経験は2人の経験。常識や倫理なんて考えたことないし、これで困ったことも変に思ったことも無い。
だって僕たちは、表裏一体の関係。空は海、海は空。僕たちを区別できる人なんて、どこにもいない。

僕たちはそれを、当たり前だと思っていた。


今日、この日までは。



隣に誰か引っ越してきたのかしら。朝から騒がしいったら。あとで挨拶に来るはずよね、あぁお掃除しなくちゃ。あら空、おそよう。もうお昼過ぎよ、後ろの髪が跳ねているわ。え、海だったの?ごめんなさいね、もうご飯は出来ているから空を呼んで来てくれないかしら。おはよう、空。え、海なの?でもさっき海が空だって…あぁあなたたち、また自分たちがわからなくなっているのね。じゃあ今日からあなたが空であなたが海ね。ちゃんと覚えておきなさい。後でお隣さんがご挨拶に来るかもしれないんだから。あらやだ、噂をすればなんとやら。本当に来ちゃったじゃない。まだお掃除できてないのに。はいはーい、今出まーす。


「えっと、東西南(とうざい・みなみ)です!あと"北"があれば東西南北になります!空くんと海くんとは同じ学校に通うことになるので、仲良くしてください。よろしくお願いします!」


爛々と輝く、大きな瞳が特徴的だった。お約束のタオルの包みをもらって、猫を被った母さんが僕たちの紹介をして。その後に、これがうちの娘です、と紹介されたその女の子。
彼女は僕たちに、革命を起こした。



「空くん、靴紐がほどけてるよ!海くんはネクタイが曲がってる!」

「海くん、今日はお休みなの?空くん一人でさみしいね」

ねぇ、君は何で、

「またどっちがどっちかわからなくなっちゃったの?仕方ないなぁ」

君は何で、

「こっちが空くんで、こっちが海くん。わかった?」

何で僕たちを、見分けられるの?



僕たちはいつでも、表裏一体。だから、空の考えは僕の考え。海の考えは僕の考え。

「どうしようか、こんなの初めて」

「こんなの初めてだ、どうしよう」

「空はこの気持ち、何だと思う?」

「そんなの海ももう、わかってんだろ?」

うん、そうだね。これは恋だね。
今までなんでも"共有"してきた僕たちが、初めて"別々"を望んだもの。逃しはしないよ、絶対に。



「負けないよ、空」

「こっちの台詞だよ、海」




スタートラインはじだよ
(海が青かったのか、空が青かったのか)(どっちが先かなんて、わからないだろ?)


-end-



提出→xxx.W
お題→『出会い頭の言葉』『表裏一体の関係』

お題を見た瞬間、こんなの浮かびました。今更だけど、海が青いのは空を映したから、てよく言いますよね。…海くん、どんまい!←


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