クラスに絶対ひとりはいる。
いつもバカみたいに大口開けて笑って、底抜けに明るい奴。何が面白いかもわからないけれど、やたらテンションが高くて、いつもみんなの中心にいるような奴。
うちのクラスの場合、それはまさに宮元元気(みやもと・げんき)のことだ。奴は今日も名前の通り、元気が溢れている。



「うおッ、予告ホームラン!」

「やってやれ、ゲンキ!打て!お前ならいける!」

それに続く複数のヒューヒューとはやしたてる声。野球をしていて男の子は元気ね、だとか勘違いしないで欲しい。ここは教室だ。バットは箒。ボールはなんか紙をガムテープで固めたやつ。しかもやたらとでかい。でも、一番ひどいのはキャッチャーだ。グローブが無いからって、バケツで代用するのは無理がある。もはや野球と言えない。
休み時間に教室の空いたスペースで騒いでいる男子の集団を、クラスメイトたちは慣れたように観戦している。一部の女子なんて時々歓声まであげる始末。
まったく、ガキじゃないんだから。あれで高2とか間違ってる。そんなことを考えながら私は視線を手元の本に戻した。



「うるさいなあ」

突然聞こえた低い呟きに驚いて顔を上げると、前の席の高倉(たかくら)君が身体を半転させて後ろを向いていた。私の目を見て、彼は悪戯に口角を上げる。

「そんな顔してるよ、向井(むかい)さん」

咄嗟に両手で頬を押さえた。私、そんなにあからさまな顔してた?確かにああいう騒いでる感じは苦手だけど。全体的に、低温なんです。
そんな私の行動が面白かったのか、高倉君は肩を揺すって笑い出した。それに思わず目を瞠る。

「何、そのオバケでも見たような顔」

「高倉君って、笑うんだ」

明らかに失礼なことを言うと、今度は苦笑を返された。

「僕だってニンゲンなんだから、面白いことがあったら笑うよ」

「そうだね。いつもクールな感じだから、ちょっと驚いただけ」

そう言ったら、また高倉君はクイと口角を上げる。後ろで騒ぐ男子たちにはとても真似できないであろう、大人な笑み。

「"クール"は、向井さんの方でしょ?」

「………らしいね」

苦笑しながら返す。
私は少し人よりも冷めている部分があるらしい。それを初めて自覚したのは中学生の時。何クラスの誰々がカッコイイといった話をしていた女子に「向井さんは誰がイイと思う?」と聞かれて、正直に「あんまり興味ない。それより明日の数学の予習って何ページからだっけ?」と普通に返したら、呆れたような顔をされた。それ以来、なぜか「向井さんってクールだよね」だとかいわれるようになってしまった。

でも私としてはやっぱり高倉君の方が余程クールだと思う。
今時風に着崩されていない制服もシャンとしているし、常にスッと伸びた背筋は彼に独特の貫禄を与えている。銀縁の眼鏡から覗く涼しげな目元に落ちる女子も多いらしい。

少なくとも私は、宮元よりは高倉君派だな。テンション高いのとかついていけないし。その点、高倉君は一緒にいて落ち着く。波長が合っているのかもしれない。

こうやってつい無意識に宮元と比べてしまうのも仕方のないこと。なんせ宮元元気という奴は、モテる。それも半端なく。
ちょこちょこ跳ねた柔らかそうな茶色の髪に、大きめのカーディガン。身長は高い方なのに、幼い印象を与えるやんちゃな笑顔。人好きする明るい性格に裏表のない人柄のおかげで、男女共に人気者。カッコイイとカワイイの中間を地で行く彼は、本当にモテる。

今も、予告ホームランが成功したのか、試合を見ていた女子たちが一際高い歓声を上げている。「ゲンキ、かっこいいー!」とかいろんな声が飛び交う。

でもやっぱ私はああいうテンション高いの無理だなぁ。なんて考えながら、休み時間までよくやるよね、と高倉君に言おうとした瞬間だった。


「っぶない!向井!」


背後から歓声を割って聞こえてくる焦った声。それとほぼ同時に視界を遮る誰かの手。バシッ、という軽い音がして、見たことのある歪なボールが机に転がった。

「悪いっ、大丈夫だったか!?」

慌てて駆け寄ってきたのは、さっきまで箒を振り回していたはず宮元だった。
何が起こったかわからない。事態を把握する前に、目の前の腕が静かに戻っていく。それを追いかけるようにして視線を上げると、高倉君が余裕の表情で笑みを浮かべていた。全く動じた様子がない。
転がるボール。謝る宮元。その背後から心配そうにこっちを見ているクラスメイトたち。私はやっと状況を理解した。

「ありがとう、高倉君」

「どういたしまして」

座ったままの体勢でなんでもないようにいう彼は、やっぱりクールだった。

「ごめん、向井!こっちに飛ぶなんてホント思わなかった!許して!」

目の前でパンッと両手を打ち合わせて、宮元が頭を下げる。その拍子にあちこち跳ねている緩い茶髪の頭がグイッと眼前に差し迫ってくる。それに身を引きながらとりあえず机に転がったボールを拾い上げた。

「いいよ、結果当たらなかったし。はい、ボール」

「ほんとマジでごめん!」

ボールを受け取りながらも宮元の顔は申し訳なさそうに歪んでいる。それに再度大丈夫だから、と返すと宮元は今度は気まずそうに高倉くんのほうを向いた。

「えっと、高倉も悪かったな」

「いや、いいよ。僕にも原因があったし」

あっさり言った高倉君のに「え?」と顔を上げると、なぜか宮元が真っ赤になっていた。「いや、えと、その」弁解するようにモゴモゴ言っているが、全く聞き取れない。不思議に思って見ていると、パッと目が合う。けれど、すぐさまそらされる。え、何それ。普通に傷つく。

高倉君はなぜかその様子を見てクスクスと笑っていた。それにしても今日はよく笑う。クール返上か?至極楽しそうだ。

「大丈夫だよ、宮元。僕と向井さんはそんなんじゃないから」

続いた言葉に、宮元はピシッと固まった。そしてまるで温度計のように、グーンと首元からさらに赤くなっていく。私はその宮元の様子と、突然出てきた自分の名前に驚いて、ただ2人の顔を交互に見るしかない。意味がわからない。

高倉君に何の話か聞こうとした時、タイミングが良いのか悪いのか、チャイムが鳴った。様子を伺っていたクラスメイトたちが慌てて動き出す。固まっていた宮元も高倉君に名前を呼ばれて我に返った。

「え、えと、とりあえずごめん!」

最後にもう一度だけ謝って席に戻っていく。なぜか目を合わせてくれなかった。なんで宮元、泣きそうな顔してんの。



「ねぇ、宮元なんか顔赤くなかった?」

前に向き直った高倉君にこっそり聞いてみる。風邪かな?と続けると、高倉君は苦笑して言った。


「なんていうか、向井さんってさ…―」




クールというより、ただの感?
(僕と向井さんが気になってコントロールを失うなんて)(宮元もまだまだだね)


-end-



灰里さんへの相互記念でございます。リクは『テンションの高い男の子×クールな女の子、爽やかな感じ』とありました。えー、はい。色々ツッコミどころ満載ですね ̄ω ̄←

クールの意味はきちがえてる。テンション高いの出てない。爽やか要素いづこ。というか高倉って誰だよ。


(´‐ω‐)=з フー


えー、灰里さん、まったくリクに添えていない感満載ですがこんなやつでよかったら受け取ってやってください…(つд-。)
出せなかったネタがあるのでなんか続編がきそうな予感←ぇ
こんな奴ですがよろしくおねがいします(土下座)

THANX !!!
 DEAR yawning
  FROM kokyu


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