『文化祭、なんとかさりげなく彼女と同じ割り当てになれた。友達には感謝。少しでも喋れるといいけれど』

やっぱり!日付もちゃんと今年の夏前になっている。絶対にさっきのしおりと同一人物だ。ここまでくるともうとまれなかった。少し後ろめたく思いながらも、私はボックスをひっくり返していた。

『少年よ大志を抱け。抱くから俺に彼女をくれ!』

『お年玉が1ヶ月で消えた。なんで化粧品ってあんなに高いわけ?』

『昨日犬の散歩忘れたら、今日ポチの機嫌が悪かった。しょうがないから帰りにジャーキーを買ってやる。』

『虎穴に入らずんば虎子を得ず。図書室に来なければ、本の良さはわからないということ!』

長い時を経たいろんな人のいろんな言葉が積み重なっていく。普通の紙にクラフト紙、折り紙でできたものやフェルト生地のものまである。種々多様なしおりの中でも、ちらほらと顔を出す白い画用紙が気になって仕方が無い。
すべて掘り返したら、同一人物と思わしきしおりは合計で6枚あった。

最初の6月、

『やっと席替え。彼女の近くの席がよかったけれど、結果は斜め後ろ。微妙だけど、授業中に彼女が見れるのは嬉しい。』

次は7月、

『文化祭、なんとかさりげなく彼女と同じ割り当てになれた。友達には感謝。少しでも喋れるといいけれど。』

8月、

『夏休みは彼女に会えない。早く学校が始まればいいのに。って言ったら友達に呆れられた。恋人になれたら、いつでも会えるのに……。』

9月、

『体育祭、彼女は障害物リレーに出るらしい。俺はもう総合リレーに決まってるから、同じのは選べない。初めて体育の50メートルを本気で走ったの、後悔した!』

案外かわいらしいこの男子生徒の恋に自然と笑みが浮かんでしまう。なんだろう、この暖かくなる気持ちは。続けて10月のしおり。

10月、

『2学期の席替えでようやく彼女の隣をゲット!これまた友達に感謝。だけどうまく話しかけられない。図書館ではもっとがんばれるのに……。』

その言葉で私はふと気付いた。そうだ、このしおりを作っているということは、この男子生徒は私と同じ図書委員の誰かだ。思わず脳裏に今年のメンバーを思い浮かべてしまう。けれどなぜかこのしおりの文面とイメージが合う人がいなくて、首を傾げる。
最後にめくった11月、それは一番日付が新しかった。書かれた日付はなんと昨日。あれ、昨日って日曜日だよね?ふとよぎった疑問も、書かれた内容によって脇に押しやられた。それは今までの、甘酸っぱい日記のような内容ではなかった。

『明日、賭けに出る』

ただ、それだけ。短いけれど、筆跡からして同じ人物だと思われる。他のよりも濃くて、しっかりとした字。まるでその決意が現れているようだ。けれどそれ以外は何も書かれていない。思わず裏側を確認してしまったが、そこには白い空白があるだけ。賭け、というのはどういうことだろう?告白でもするのだろうか?並べられた6枚のしおりを眺める。なんとなく感情移入をしてしまっていた私としては、物足りない終わり方。って、人の恋路に物足りないなんていっちゃだめか。腑に落ちない気分だったが、時計を見て慌てた。

「やば、私も帰らないと……!」

カウンターに散らばったしおりをボックスに戻していく。結局しおりの男子生徒が誰なのかも、その恋がどうなったのかもわからなかったけれど、今はそれどころじゃない。初冬は日の入りが早くてすぐに暗くなる。あまり遅いと心配性の母がうるさいのだ。

ボックスをいつもの位置に戻してカウンターに戻ると、端に寄せられた数冊の本に気がついた。さっき志藤君が返却した本だ。後でやるつもりですっかり忘れていた。明日の当番の子に回すという考えも過ったが、返却作業はそんなに面倒でない。

「ささっとやっちゃお」

そうと決まったら早い。本のバーコードを読み取るために裏表紙をめくる。その時、本の上方に白い出っ張りがあるのに気がついた。しおりが挟まっているのだ。志藤君が抜き忘れるなんて珍しいな、なんて思いながらそれを半分ほど本から引き抜いたところで、無意識に鼓動が早くなった。ここ数分ですっかり見慣れてしまった、白い画用紙。

「うそ……」

なんで志藤君の返した本に?白いしおりを裏返す。そこには、あの筆跡でただ一文が書かれていた。

『教室で待っています』

まさか、いや、そんなはずは。迷ったのは一瞬、気がついたらカウンターに並べた白いしおりを手に図書室を飛び出ていた。ありえない、そんなはずがない。否定の声が頭の中を回るけれど、それでも足は止まらない。

「志藤、くん……!」

息切れを整えながら、教室に入る。振り返った人影は、やっぱり笑顔が素敵な志藤君だった。志藤くんは私の手の中にある白いしおりを見て、覚悟を決めるように表情を引き締めた。机に寄りかかる彼の手の中には、今までなくなったとばかり思っていた私の作ったしおりがいくつもあった。

「ごめんね、勝手にもらっちゃって」

苦笑と共に言われた言葉に首を振る。ふと、文化祭のことを思い出した。喫茶店をやるうちのクラスで、私は裏方にまわってジュースを作っていた。その時、私の横でミキサーを回していたのは、志藤君だった気がする。

「それ、数合わせに入れてたんだけど、案外気付かれないものなんだね」

私の手には白い7枚のしおり。彼の手には、今日のを入れて10枚のしおり。体育祭での志藤君は格好よかった。なんせ4位まで落ちていた順位を、たった半周で1位まであげてアンカーにつなげたのだから。私はその前に出た障害物リレーで疲れちゃって大声で応援する元気はなかったけれど、うちのクラスのアンカーが1位でゴールテープを切った瞬間、みんなで駆け寄った記憶がある。

彼の前まで歩み寄って、私も自分の机に寄りかかった。彼の机の横に並んだ、私の机。先月の席替えで横になったとき、よろしく、って笑い合ったよね。


「もう、俺が言いたいことはわかってると思うけどさ、――」


少し耳を赤らめて、目を軽く伏せた志藤君。



「鈴木さんが、好きです」




少年の恋路の行方は
(白いしおりは、かく語りき)(恋路の行く末は我が手の内と)


-end-

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提出→反時計回り
お題→『しおり』

まったくアイデアが浮かばなくて、今月の提出はほぼ諦めていた状態でした。けれどなんとか作品が出来てよかったです^^
難しいお題でした´`

::追記
この作品を反時計回り様のコンテストに応募したところ、なんと最多票という思わぬ成績をいただくことができました……!
本当に感激でございます。投票していただいた皆様、ご愛読いただいた皆様、ありがとうございました。 (10/12/21)


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