わたしの彼氏、春《はる》くんはとっても可愛いの。
くりくりでパッチリしてる大きな目とか、ちょっとクセのある栗色の髪の毛とか。本当にまるで天使みたい。ただちょっとだけおマヌケさんで、ヘタレくんなところはあるけれど。だって、ちょっと上目遣いしたり(偶然よ?)手が触れちゃったり(狙ってなんかいないわ)しただけですぐに真っ赤になっちゃうの。

ホントに、可愛い!

でもやっぱり天使といっても可愛いといっても、男の子。時々何か物欲しそうにこっちを見つめてるのはわかってるの。気付かないフリしちゃうんだけどね!だってしょうがないじゃない?こういう性分なんだから。


* * *



「み、みーちゃん!」

あ、やっと来た!
あの几帳面な春くんが遅刻なんてめずらしい。って言っても2分くらいだけどね。でもこんなチャンス、ちょっとうずうずしちゃう。そんなに怒ってないけど、わざとちょっとだけ唇を尖らせる。
春くんから手を繋いでくるまで機嫌を直さない。うん、それでいこう!
内心にやにやしながらも端目でちゃっかり姿を確認。それにしてもなんであんなに必死に走ってるんだろう?いつもはぽやぽやしてるのにね。

「もう、春くんおそ――」

「みーちゃん!!!」

おそーい、と続くはずだった言葉は遮られ、強い力で腕を引かれる。ほら、やっぱり男の子。
え、何なに?とか思っている内にも腕が引かれていく。待ち合わせ場所だった時計台からどんどん遠くへ。

「春、くん・・・?」

いつもとは違う様子に少し違和感。ちょっとした焦り。悔しい、いつも焦らせるのはわたしの役目なのに。ねぇ、ともう一度声をかける前に春くんが勢い良く振り返る。

「もう、我慢の限界…」

え、という言葉はわたしの唇から春くんの唇に吸われていく。
まぁ付き合ってそろそろ1年ですが。未だにキスすらしていないのですが。焦らしまくった自覚はあるのですが。
でもなにこの展開。

「…んっ、」

自分じゃないみたいな恥ずかしい声に顔は真っ赤。
そうですよ!さっきまで(自称)小悪魔ぶってましたけど、どうせわたしは恋愛初心者ですよ!なんてったって春くんが初めての彼氏なんだから!

「んーっ、んーっ、んーーーーっ」

そろそろ息が続かないと胸を押すと、やっとこさ春くんも離れる。心なしか満足気だ。まぁ、1年…だもんね。ちょっと反省。

「春、くん、いきなりどーした、の・・・?」

ゼェハァと息を乱しながら聞く。すると春くんは困ったような顔をしながらぽりぽりと頭をかいている。ていうかなぜそんな余裕そうなんだ。いつもの純情は一体どこへ?

「んー、しばらくはみーちゃんに合わせようかと思ってこの1年我慢してきたんだけど…」

ん?あわせる?

「でも今日のみーちゃん、可愛すぎてつい襲っちゃった。ごめんね?」

え、待って待って?なんで春くんそんな楽しそうなの?なんでそんな顔して笑ってるの?

それじゃあまるで、

「まぁそんな露出度高い服着てくるみーちゃんが悪いんだけど、………今日からは俺も、手加減しないから」

まるで、春くんのほうが小悪魔みたいじゃない…?

「がんばって小悪魔してたみーちゃんも可愛かったけど、俺的には素直な泣き顔とか見てみたいかも」

うそ、訂正です。小悪魔じゃないです。こいつ、ただの『きちくやろー』でした。




魔の誤算
(春くんのばか、えっちえっち!)(いてっ、…今夜覚えてろよ?)(…!)


-end-



提出→プラチナ
お題→『もう、我慢の限界。』


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