手元に残ったカードを見て私は絶望した。

「はい、今回の大貧民も梨未(りみ)ー」

「アンタ今日カード運やばくない?さっきからずっと負けっぱじゃん」

けらけら笑う悪友たちから精一杯視線をそらす。だってこの後の展開はわかっている。いつもは私だって敗者を笑う側の人間だったからだ。しかし神様はやっぱり公平で、どれほど日ごろの行いがよくたって避けられないことはある。
放課後に教室に残って仲良しグループでのおしゃべり兼トランプ大会。始まったのは高1の半ばだからもうかれこれ1年くらい続いている。そしてその頃からもはや伝統となりつつあるコレ。

「はい、罰ゲーム!!!」

リーダー格の美奈(みな)の声でいっせいに盛り上がる。というかゲームよりも盛り上がってる。まぁその気持ちもわからなくはない。なんてったって、私はこれまで奇跡的に負けなし。大富豪になったことはないけれど、それでも貧民ぎりぎりで生き延びてきたのだ。まぁこの大所帯で大富豪をすれば負ける確率も減るわけですが。だから実はこれが初めての罰ゲームだったりする。
でもまったく持って乗り気にはなれない。だって彼女たちの考え出す罰ゲームは、ものすごくえげつない。

「んっふふふー、地味ぃに初罰ゲームの梨未ちゃんにはなぁにをお願いしちゃおっかなぁ〜?」

楽しげにひそひそ話す彼女たちを見て冷や汗たらり。これは過去ワースト3に入るものを言われてしまうかもしれない。などと過去に思いをはべらせているうちにも、彼女たちの話はまとまったようでこちらをニヤニヤしながら見てくる。

どうやら決まったようだ。冷や汗たらたらな私を見て、美奈ははっきりと言ってくれた。

「桐生(きりゅう)くんに、告白してきて?」

フッと意識が遠のきそうになった。踏ん張った。がんばった。

「…無理でしょ?」

「うん、がんばれ!」

がんばれそうになかった。


* * *



桐生くん。一言で言うと、恐怖。
別に不良とまではいかないけれど、ていうかむしろ成績いいっぽいけど、でもなんか一匹狼っぽい雰囲気の人。話しかけるのは男子はおろか、教師ですら大変困難だ。
何せあの眼光!睨み!!すごみ!!!
体系は細めだけれど身長がすごく高くて、その上あの低い声で「あ?」とか言われたらもう即死です。本当に!

そして今まさにその状態だったり。

「き、き、き、桐生く、くん…!」

「あ?」

即死。
って、そうじゃなくて。さすがにふざけている場合ではあるまい。だって眼光が……。

「あの、う、裏庭にその、き、来てくれないかな、なんて〜あはは………」

「………」

「……」

「…」

うん、これはどう考えても無理だ動く気配なしよって実行不可能てことで美奈たちに報告しに行こう!と即効脳内で安全ルートを確保し、うなずいて背を向けた瞬間背後でガタッと立ち上がる音がした。
え、まさか。と思いながら振り返ると、こちらをガンガンににらみつける桐生くん。その瞳がまさに「早く行けよこのノロマが俺様の睡眠を邪魔してくれちゃってよう」といっているように感じる。

え、ついてきてくれるんですか。まじですか。
予想していなかった(というよりしたくなかった)展開にドギマギしながらもゆっくり歩を進めていく。

告白の定番とも言われている裏庭の一角まで来て桐生くんに向き直るはいいが、何から言っていいのかわからない。
いや、それは単純に好きですとかでいーのかな。でも正直今まで話したことなんてなかったしそんなこといきなり言ってもおかしいし。
あれ、でもこれ罰ゲームだから別にいいのか?ていうかそもそも罰ゲームで告白って…いまさらだけどどうなの?などと考えていると、とうとう痺れを切らしたのか桐生くんが口を開いた。

「で?」

「へ?」

「で、何?つってんの」

一気に鋭くなる眼光にビクビクッとなっていると、なにやら校舎の影から人の姿が見える。どうやら彼女たちが罰ゲームをちゃんとやっているか見るためについてきたらしい。ある意味怖いもの知らずというか。でもこれでもう本当に逃げられない。

よし、ここは早くいって終わってしまおう。
すぅっと息を吸って不機嫌そうな桐生くんに向かって私は言った。

「好きです!」

「そ。じゃ、今日から俺の彼女ね」

ザ・沈黙。
え、今なんと?

「何してんの、アンタ。じゃなくて、梨未だっけ?教室もどんぞ」

は?え?何このドライな対応。
あまりの展開に校舎影にいた彼女たちも唖然としている。

ていうかこのままいくと私はあの桐生くんの彼女…?
え、それは駄目!それはやだ!

もう罰ゲーム云々言ってられない。とりあえず誤解を解かないと…!

「あ、あの!桐生くん…その、この告白には実はわけが―」

「梨未」

必死な私の弁解はなぜか途中でさえぎられ、気づけばなぜか桐生くんと壁にはさまれている状況。あれ、超絶やばくない?
もはや膝はガクガク来てて逃げられる気がしない。ついでにいうと逃げたら逃げたで後が怖い……!

彼は私の耳元に口を近づけていった。あの独特の低い声で。

「覚悟、しとけよ?」


ペケから始まる23
(ペケから始まったこの関係)(123なんてゆっくり進めると思うなよ?)


-end-


提出→ゆびさき に きす
お題→『罰ゲーム』


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