サァァァァ、という微かな音に雨が降っていることがわかる。あぁ、すごく憂鬱だ。

水色の傘を指して一人で歩く。傘っていうのはなんでこうも、小さいんだろう。自分の周りだけ雨が降ってこないように。自分の周りだけに小さな空間を作る。それはまるで今のわたしみたいだ。
慣れない土地に大学受験でやってきて、1人暮らしを初めて間もない今。もとより社交的な性格ではないため友達もいない。淋しいのを押し隠して自分の周りだけに触れるなという空気をまとっているわたしは、傘みたい。なんて意味のわからないことをぼーっと考えながら歩いていると後ろから呼び止められる。

「美咲(みさき)ちゃん!」

それはここ数日ですっかりと聞きなれてしまった彼の声。彼、太陽(たいよう)先輩。性格も名前の通り太陽のようなひとで、こんなじめじめとした雨の日なんて似合わない。そして、絶体絶命の事態からわたしを助けてくれた人。

数ヶ月前の大学入試当日のこと。わたしはマヌケなコトにも遅刻しそうになった。まぁ詳しく話すと長くなるが、それは決してわたしのせいではない。はず。
そこで出会ったのが彼。困り果てて通りすがりの人に鬼の形相で自転車を貸せと迫るわたしに、二人乗りで送ってくれた名も知らぬ男の人。後日大学で再会したときは本当にびっくりした。

そしてなぜかその後も交流は続いていたりする。

「今日も雨、ひどいなぁ」

「今日も自転車、勇者ですね」

微妙にかみ合わない会話をしながら雨の中にたたずむ。
彼はなんのポリシーなのか、入学してから一度も自転車通学をやめていないらしい。それでこそ、雨の日も雪の日も。だから梅雨の時期であるこの6月は特に苦労するらしい。それなら歩けばいいのに、ね?

「いや〜、でも今まで結構淋しかったんやで?1人で自転車こいでさぁ」

「まぁこの時期に自転車使ってる人なんて相当な変人、…あ、先輩自転車でしたね」

「ちょ、美咲ちゃん今の絶対わざとやろ!?なに、変人て俺のことか!?」

拗ねたような顔をする先輩。ちょっと笑っちゃう。

「先輩、そんな拗ねないで」

「………その先輩ゆーのも、嫌や」

「え?」

食いつくのそこですか。そうですか。

「何度も太陽でええってゆうてるやん」

「………太陽、」

「そーそー」

「先輩」

「…………もうえーわ」

諦めたように渇いた笑いを見せる先輩。
だって、男の人を呼び捨てなんて慣れなくて。恥ずかしくて真っ赤になっちゃうなんて、いえないでしょ?

「美咲」

「、!」


「なら、お返しに俺は呼び捨てしちゃるわ」

先ほどの表情は瞬く間に消えて、どこか悪戯っぽく笑う先輩。本当に表情がころころ変わる人だ。

「美咲、真っ赤やん」

「な、違います!たこ焼が食べたいんです!」

「やから意味わからんって!」

今日も変な言い合いをして過ごす。

「じゃ、今日もいつもの頼むわ」

「だからいい加減自転車通学あきらめてくださいよ」

呆れたようにそういいながらも、笑みを浮かべてしまうのは仕方がない。あの時みたいに先輩の自転車の後ろに乗って傘を差す。

「二人乗りして後ろの人が傘指せば二人とも速いし濡れへんし、な、俺天才ちゃう!?」

「どちらかといえば奇才かと」

「なにおうっ!?」

サーッと迷いなくわたしの家へと向かう自転車。
いくら今ぬれてなくても、わたしを送った後にどうせぬれるじゃない。とかおもったりはするけれど。

晴れた日は自転車で二人乗り。
雨の日は二人乗りをしながら相合傘。

孤独な空間を作り出す傘も、2人はいれば狭すぎるくらい。
もう淋しくないね、先輩…?


粒ロンリネス
(そういえば先輩、彼女いましたっけ)(この状況でそんなこと聞かんやろ、普通)


-end-



提出→愛と涙様
お題→『相合傘』

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