「次、朝倉《あさくら》なー」

先生の声にどきんどきんと高鳴る胸を抑えながらゆっくりと立ち上がる。教壇に置かれた箱に手を伸ばして、その中からパッと1枚くじを引いて急いで自分の席に戻った。

高校3年生の2学期も半ば、多分最後となる席替え。これを逃せば、もうチャンスはない。

「次は…ほれっ、起きろ!斉藤《さいとう》!」

1人ひとり生徒の名前を呼んでいく担任の呆れた声にクラスが笑う。そんなことも気にせずに斉藤君は夢の中。


これを逃せばもう、チャンスはない。彼に近づける、チャンスが。


不機嫌な顔で目をこする起きたばっかりの斉藤君は気だるげに教壇まで歩いていく。そんな姿ですら目が離せない。
私とは全然違って、無造作に箱の中に手を突っ込み適当に1枚を摘み上げる。


そっと自分の手元の紙を広げると、それは最後尾の窓際の席だった。なんという素晴らしい席。だけどぜんぜん嬉しくない。だって彼と近付ける確率がグッと減る。

お願い、14 か 25 か 26 のどれか!


「おい、斉藤ーっ、お前何番だよー?」

彼の友人の声に胸が騒ぐ。深呼吸して耳をすませるまでもなく届いた低音は、やっぱり眠そうで、


「あー、32番」


* * *



心地よい日差しの窓際。優しい風もテンポの遅い授業も眠気を誘う。でも端っこだから先生の目も届きにくい。周りは偶然にも親しい友達ばかりで、最後の席替えにしては素晴らしすぎる席。
ただ1つ、彼が少し遠いことを除いては。ナナメ前の横の横の横。なんとビミョーな。

ふぅ、と溜め息をついて窓の外を見る。秋も過ぎてそろそろ冬に近付く校庭は少し寂しげだ。そして窓に映る私の顔はまさに憂鬱。

「運ないなぁ……」

呟きながらなんとなくフイと前に視線をずらす。

「あ、」

前言撤回。


「こんくらいが、いーのかも」

そこには窓に映る彼の横顔。1番好きなショット。


これからの授業が、楽しくなりそうです。




際はぴねす
(斉藤くん、寝顔かわいー・・・すぴー)(!・・・ちょ、おい、朝倉起きろって!!!)


-end-



提出→君色愛者
お題→『席がえ』or『再会』

関連作品::Be Brave!


桜宵 ( main home )