慈雨(じう)……―

静かに呼び掛けても答える声はない。ただ身を裂くような静寂と、微かな雨音がそこにあるだけ。

今年もまた、6月がやってきたよ。

慈雨が大好きな、この月が。



“ね、―――。ジューンブライドって、知ってる?”

柔らかい声に、細い肩。


“あのね、6月に結婚すると幸せになれるんだって…”

純黒な髪とは対照的な、白い肌。


“だから…あの、ね…?わたしも―――と………”

朱がさす頬を緩ませて、見上げた眼差し。


“ううん、やっぱなんでもない…”

君は未来に、なにを夢見ていた……?



なぁ、慈雨。
慈雨がいなくなってから、もう8回目のジューンブライドの季節だよ。

「結婚、しよう」

8年前の若かった頃、言えなかった言葉。君には届くことなく、霞んでいく。


8年たった今も、心には君がいて

きっとそれは10年たっても、

20年たっても、

変わらない。



そっと押し付けた唇には湿った石の感触。

雨に慈しまれた君が眠る石碑に、キスをする。


雨にれたキスをして
(眠る君に誓いのキスを)(来年もまたきっと、会いに来る)


-end-



提出→運命にズルしても様
お題→『6月の花嫁になりませんか?』


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