「おい、デートしろよ」

遊星の一言で私達はひと月ぶりのデートへ出かけた。
や、デートっていうかただ出かけてるだけなんだけど。
べ、別に!遊星とは確かに付き合ってるけどデートっていうかその…そういうのじゃないし。
第一私は…

「友紀、何か考え事でもしているのか?」

「えっ」

「心ここに非ずといった顔をしている」

「あ、あはは、そうかな」

恋愛ごと以外には勘の鋭い遊星に見抜かれ、ぎくりとしたものの、遊星は一瞬眉を寄せたのみで再びスタスタと歩き始めた。
おかしい。こういう場面で遊星は「ふ、オレのことを考えているのか。まったく友紀は可愛いやつだ。オレも頭の中は常に友紀でいっぱいだ」とか言いそうなのに。
それというのも、彼の愛情表現は少し、いや、だいぶ変わっているからだ。
毎日毎日ガレージでもどこでも繰り広げられる告白とお触り。恥ずかしい台詞を平気な顔して吐くことだって、日常茶飯事である。

「友紀」

「な、なに?」

あ、また考え事をしているのがバレたのだろうか。
そうだよね。仮にも私達は今、デ、でえと…をしているわけだし、か、彼女…が他のことを考えてるなんてあまり嬉しいものじゃな…

「新婚旅行はどこへ行こうか」

「は?」

「オレも考えていたんだ。友紀とならどこへ行ったって楽しいに決まっているが、そうだな、デュエルモンスターズが生まれた地、エジプトにはオレも興味がある」

「あ、あの…」

「何せ遊戯さんは古代エジプトのファラオだったと聞いた」

「遊星…何の話を」

「新婚旅行だ。友紀と、オレの」

「いや…」

「…フ、その前に結婚式のウエディングドレスを選びたいと。すまない。つい気持ちが逸ってしまっていたな。今日はこれから友紀のウエディングドレスを選びに行こう。きっと友紀は何を着ても可愛いだろうが、そうだな、オレとしてはお色直しの時はスターダスト色のドレスを…」

「そもそも婚約してねーーーー!!!」

遊星の口から出る数々の意味不明な言葉に耐えられなくなった私は、思わず、遊星に激しいツッコミを繰り出したのだった。





「痛い…」

「ご、ごめん」

「だが…感じる…」

「ごめん」

先に帰るわ的な意味で。
立ち上った私の手を遊星が掴んだ。

ここはネオ童実野公園。私達は今ベンチに腰かけている。
先ほどのツッコミが思っていたより強烈だったのか、遊星の頬は赤く腫れていた。…くっきりとグーの形で。
自動販売機で冷たいジュースを買ってきた私は、それを遊星の頬に当て、ただただごめんと繰り返した。

「フ、これも友紀の愛情表現ということか。わかっているさ」

「ごめん」

「友紀の愛情表現は少し変わっているからな」

「それはそっくりそのまま遊星に返す」

「怒ってはいないさ。謝らなくていい。この頬の痕も友紀からのキスマークのようなものと考えている」

「それはない」

「さあ、デートの続きをしよう」

「…うん。本当にごめんね、遊星」

「気にしないでくれ。ジュース、ありがとう。ぬるくなってしまう前に飲もう」

そう言って遊星は私の手からジュースを取ると、それを上下に何度か振り蓋を開けた。

「あ!それ…!」

言うより速く、プシュッという音とともに缶から泡が発射された。

「わ…!」

発射された泡は見事に私の上半身にかかる。
びしょぬれになった私が遊星を見ると、遊星は驚いた表情を浮かべていた。

「すまない!」

「だ、大丈夫」

慌てて遊星はハンカチを取り出すと、私の顔についた炭酸飲料を拭き取り始める。

「これはハンカチだけではどうしようもな…」

「な、何?」

「友紀、えろい…」

「なっ!」

うっとりと、私の体を見つめる遊星に、私は咄嗟に自分の体を手で隠した。

「張り付く服がまた…こう、そそるな。友紀、シャワーを浴びた方がいい。オレと」

「どういう意味だよ!」

「いや、ジュースを洗い流すという意味だ。他意はない」

キッパリと言い放った遊星は未だに私の手で隠した胸の辺りを凝視している。
信用できるか!

「そうと決まればさっそく、来い!遊星号!」

遊星が呼べば、遠くの方からD・ホイールの音が近付いてきた。

「えええ!?なんで来るの!?」

公園に入ってきたのは紛れもなく赤い塗装が特徴の遊星号で、遊星はさっさと私を抱えると、遊星号に乗り込んだ。
私の疑問は軽くスルーである。

「行くぜ!ライディング・デュエル アクセラレーション!!!!」





「お、おい、どうしたんだよ友紀!?」

ガレージに着くと、ちょうど仕事の昼休みだったクロウが上半身びしょぬれになった私を見て驚きの声を上げた。

「や、ちょっと」

「クロウ、そんないやらしい目で友紀を見ないでくれ。これから友紀を風呂に入れてくる」

「言っとくけど私一人で入るからね!?」

「いやっ…いやらしい目でなんか見てねー!ただ友紀が帰ってきてびしょぬれだったら何があったのか気になるだろ!」

カッと赤くなったクロウの方へ遊星は振り返ると、


「間違って炭酸振っちまったぜ」


そう言った遊星は怪しく笑っていたと、クロウから聞くことになるのはもう少し先の話だ。





end.







4万HITありがとう企画!
リクエストの台詞は「間違って炭酸振っちまったぜ」で、あみだ結果は遊星でした。
まいこんさんリクエストありがとうございました!


(20110828)


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