オレが教室に戻った時、江音子は机に突っ伏して眠っていた。
…なんだ寝てやがるのか。
顔を横に向けているため表情は見てとれるのだが、何やら顔を顰めていて決して幸せそうだと言える寝顔ではない。
嫌な夢でも見てんのか?

「バクラ…っ」

!?
急に自分の名が呼ばれ驚き、江音子の顔をまじまじと見つめると、次いで江音子の口が開く。

「…あんっ…やっ……だめぇっ…!」

!!?
なななななな、なんだと!?どういうことだ!?
今江音子は何を…いや、どう考えても喘ぎ声がオレ様の耳には聞こえ…待てよ、さっき江音子はオレ様の名を呼んで…っま、まさか!
オレ様は目を見開いた。
…江音子の夢の中でオレと江音子が…所謂、そういう行為を…?
こいつの深層心理にオレ様がいるということか…?
つまり江音子は普段態度に示さないだけで本当はオレ様のこと…

「ククク…ヒャハハハハ!」

ゾクゾクするぜぇ…
オレ様が上げた笑い声に反応したのか、江音子がゆっくりと目を開けた。
少しぼんやりした様子でオレ様に気付き、バクラ…?と言いながら首を傾げる。

「江音子、夢の中でのオレ様はよかったかよ?」

「ん…」

「ククッ…、夢の中のみならず現実でもオレ様を堪能させてやるぜ!」

ガシッと江音子の肩を掴めば、江音子はオレの急な行動に驚いたのか半分しか開いてなかった目を完全に見開いた。
オレ様の勝ちだ、王サマ、社長、城之内、マリク!あいつらの悔しそうな顔が目に浮かぶぜぇ…!
江音子、これからオレ様とテメェのラブラブ学園生活が始まると思うと…

「バクラ、なんか夢にバクラが出てきたよ」

「知ってるぜ?テメェが寝言でオレ様の名を呼んでいたからな」

「あ、寝言言ってた?なら聞いたかもしれないけど、バクラがお店の前に置かれてる杏仁豆腐の見本を食べようとしててね」

「…は?」

「慌てて止めたのに間に合わなかったんだ」

「…どういうことだ?オレ様はテメェと…」

「ん?ご飯一緒に食べに行く夢見たんだけど…」

「何だと!?」

わけがわからねぇ。何言ってやがる…?
オレ様が困惑した表情を浮かべて江音子を見つめるも、江音子はキョトンとしているのみ。
ま、まさか…

「江音子、聞くがその時オレ様に言った言葉は…?」

「んーとね…」




「あっバクラ!その杏仁豆腐…食べちゃだめっ!」

「うっ…固ぇ!」

「それは見本だよ。だから言ったのに…」

「る、るせぇ!んなこたぁわかってんだよ!」




「こんな感じだったと思う」

「……」

あっバクラ!その杏仁豆腐…食べちゃだめっ!
(あっ)バクラ…っ…(その)あん(仁豆腐)っ…(食べち)や…だめぇっ…!

……まさか、こういうこと…か?

「ふふ、ははははは…はははははは!!」

「え、どうしたのバクラ!?」

ひとしきり狂ったように笑ったオレは、笑いが止まると心配する江音子を他所に肩をガックリ落として帰路についたのだった。



夢の奇跡
(めちゃくちゃ期待したオレ様の立場は…)





勘違いシリーズだぜ!
少しバクラが可哀想なお話。
夢主、バクラが見本食べようとする子に見えてるんですね…。
トボトボ歩いているバクラを個人的に見たいです。


(20100302)


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