迷子と迷子と時々保護者
「ごめんなさい、遅くなっちゃった」
「ほんとにごめんねー」
アキラとユイが先に来ていたキョウスケとカナデに駆け寄り、手を合わせて謝った。
今日はエンジュで夏祭りがあり、四人で行く約束をしていたのだが、慣れない浴衣を着ていたら遅くなってしまったのだ。
「おせーぞ、お前ら」
「まあまあ、女の子って準備に時間がかかるから仕方ないよ」
眉を寄せて悪態をつくカナデをキョウスケが苦笑を浮かべて宥める。
その二人も浴衣を着ていて、ユイは目を丸くした。
「キョウスケはともかく、カナデも浴衣着てるなんて意外」
「ああ、僕が貸したんだ。せっかくのお祭りだからね」
「へぇ、そうなの。似合わないけど」
「なんだと!」
また始まった。
アキラは自分が貰うはずだったワニノコを盗んだカナデが気に食わなくてすぐに突っ掛かるし、カナデもその喧嘩を買ってしまう。
仲良くしてほしいんだけどな、とユイはため息をついた。
「二人とも喧嘩しないの。せっかくのお祭りなんだから、今日くらいは仲良くしてよ」
「……キョウスケがそう言うなら」
鶴の一声ならぬキョウスケの一声で、アキラは渋々引き下がった。
カナデも熱が冷めたようで、それ以上は何も言わない。
キョウスケはすごい、とユイは素直に感心した。
「じゃあ、さっそく屋台を見て回ろうよ。あっ、カナデなにか奢って」
「なんでだよ。普通、遅れたお前らが奢るべきだろ」
「何言ってるのよ。レディーファーストを知らないの?」
「知ってるけど、そんなことしたらお前ら付け上がるだろ」
その言葉にユイとアキラが顔を歪ませた。
「酷いわ、カナデ……」
「せっかく、仲良くしてあげようと思ったのに……」
よよよ、とユイとアキラは浴衣の袖で目頭を押さえた。その肩が小刻みに震えている。
こういう事態に慣れてないカナデはたじろいだ。
「な、何も泣く事ないだろ!」
「大丈夫大丈夫。泣いてないから」
「キョウスケ、バラしちゃだめよ!」
「せっかく、泣き落としで奢らせようとしたのに!」
「嘘泣きか!どうりでおかしいと思った」
がばっと上げた顔には涙の一滴もなく、まったく泣いていなかったことが見て取れた。
当たり前だ。この二人はそんな脆い精神はしてない。
「二人とも、カナデに奢らせたらだめだからね。それに、屋台の前にお参りに行かないと」
「「……はーい」」
嫌々ながらも、アキラとユイは返事をした。
それを認めるとキョウスケが神社に向かって歩き出したので、三人も足を進めた。
「なあ、お参りって、わざわざやる意味あるのか?」
「縁日の時はご利益が倍増するらしいから、した方がお得だよ」
「お得って……主婦かお前は」
前でそんな会話をしている二人を見て、ユイは目元を和ませた。
昔はキョウスケにもつっけんどんな物言いをしていたカナデが随分と丸くなったものだ。
その変化を一番間近で見てきたから、やはり嬉しい。
「今日は皆で来れてよかったねー」
「そうね。カナデはいらないけど」
「またそんなこと言って……」
ユイはふっと遠くを見た。
アキラとカナデには仲良くしてもらいたいが、その道のりは険しそうだ。
ふと、その視界にきらきらと光る赤いものが見えて、ユイは足を止めた。
「りんご飴だ!」
お祭りの屋台の中で、りんご飴が一番好きだった。
きらきらしていて綺麗だし、甘くておいしい。
お参りはまだだが、ここで買っても罰は当たらないだろう。神様もそこまで器は狭くないはずだ。
「ねえねえ、りんご飴買っていこうよ!」
はしゃいだ様子で振り返ったユイの後ろには、見知らぬ親子連れがびっくりした顔で立っていた。