雪化粧
「わあ……!」
「ローダ。」
朝、起きるとカノコタウン一面が銀世界に包まれていました。
「素敵……!」
「ヒヤ〜。ヒヤ〜プ。」
「ゼブーーっ!ゼブ!」
アララギ博士の研究所に預けていたシャルロットとレシラムを連れて1番道路までやってきた私たちは、
カノコタウンに比べてずっと白の深い自然の世界に笑みを零した。
昨日から降っていたから、積もるとは思っていたけれど……まさかここまで見事に積もるとは思わなかった。
セッカシティ辺りはきっともっとすごい雪景色が広がっているのだろう。
「よかったわね、シフォン。これならきっと楽しめるわよ。」
「ゾロアー!」
当然だ、とでも言うように腕を組んで鼻を鳴らすシフォンに「コンっ!」と語尾に音符かハートをつけて鳴きながらトルテがすり寄る。
「コーーン!」
「ゾロ、ゾロー。」
シフォンは寒がりだから、トルテが近くにいるおかげで寒さがやわらいでいる風に見えて、
そうでなくてもくっつく2匹が微笑ましいと笑みを零した私はモンスターボールを取り出した。
「レシラム、出てきて。」
「――――グルルルゥゥ……。」
他の手持ちたちならいざ知らず、さすがにレシラムまでもを外に出した状態で連れ歩くのは目立つため、
ここにつくまでモンスターボールに入っていてもらっていたのだ。
外に出たレシラムの表情はボールに入る前と変わっていない。
「……ふふ、けれどここまで白い世界だとアナタもそんなに目立たなかったかもね。」
「グルルルルル。」
と、遠目からだとこの雪景色と同化してしまいそうな純白のレシラムに冗談めかしに言えば、
青の眼がそっと細められてやがて静かに伏せられた。
「ローダ、ローダ。」
「コーーンっ!」
「コジョ。」
ミルフィーユたちに呼ばれて振り返ると、さっそく雪の中を走り回るワッフルを背景にここで何をするつもりなのかと首を傾げていた。
「コーン?コンコーン。」
「ウォー、ウォー。」
トルテとフランも不思議そうに私を見る。
私はぽん、と手を叩き合わせるとにこりと笑った。
白の地面に手を差し込んで雪を掬い、それを両手で握り固めて球体にした。
それぞれ顔を見合わせて不思議そうにその光景を見ているミルフィーユたち。
くるりと振り返った私はシフォンの顔面に向かって雪玉を放り投げた。
「!」
べしゃり、音を立てて崩れた雪の欠片が地面にかえっていく。
「……ゾロっ!ゾロォ!」
「ローダ!」
「コジョ……!」
なにするんだ!キッと切れ長の目をつり上げて咆えるシフォンの顔にまだ白色が残っているのを見て、ミルフィーユたちが吹き出した。
「ふふっ!こうやって雪玉を作って相手にぶつけるの。みんなでこれをやろうと思ってここに来たのよ。
雪合戦ていって……シンプルなルールでしょう。」
「コジョ!」
「ええ、立派なバトルよ。」
勝負の気配にいちはやく反応を示したムースに頷いてもうひとつ作っておいた雪玉を手渡す。
ただの雪玉でも、この瞬間、彼女に手渡った時点で立派な武器と化した。
カーバンクルの瞳の中で闘志が燃え上がった。
「ゼブゼブ!ゼブ〜!」
「コーーンっ!コーン!」
「ヒヤ〜プ、ヒヤ〜。」
ワッフルたちも面白そうだとはしゃいで、さっそく雪玉を作り始めた。
「ゾロッ……。」
「そんな顔をしないでよ、シフォン。アナタがやりたいって言い出したんでしょう?」
「…………ゾロッ。」
ふいっと顔を背けたシフォンだけれど、否定はしなかった。
当たり前ね。
さっきも言ったように、雪合戦をやりたいと昨日私に言ったのは他でもない彼だったのだから。