うちのコ一番
それでねえ、というベルのソプラノがトウカの部屋の中で楽しげに弾む。


「ムーちゃんったらスゴイいんだよお!あたしがなくしちゃったグッズケースを一日で見つけてくれたの!」

「ムーランドは嗅覚が特別優れたポケモンだからね。それで、結局どこにあったんだい?」

「それがねえ、4番道路からライモンシティをつなぐゲートで落としちゃってたみたいで……。
それをホドモエシティから匂いだけで見つけちゃうなんて、やっぱりポケモンはすごいよねえ。」


ほんわかという効果音を花と共に撒きながら、中央に置かれた大皿からカップケーキを取り、ベルは微笑んだ。

話を聞いていたトウヤは「よかったね」と爽やかに笑み、チェレンは相変わらず物を散乱させるベルのクセに呆れを浮かばせ、
トウカはクッキーを頬張り満たされた溜息を吐いている。


久々にカノコタウンへ帰ってきて、旅であった手持ちたちとの出来事を語り合う幼なじみたちの傍には、
彼らの最初のポケモンたちがそれぞれくつろいでいる。

こちらは特にポケモン同士で会話をすることはなく、自分のトレーナーの傍で大人しくしていた。


「それにね、それにね、このあいだ色違いのバニプッチを見つけてゲットするときにムンちゃんが……、」

「ストップ、ベル。さっきからきみばかり喋っているじゃないか。
そろそろぼくたちの話も聞いてほしいところだよ。」

「もう!もうちょっとくらい聞いてくれてもいいじゃない、チェレンったら!」


まだまだ自分の手持ちたちについて話足りないらしいベルは頬を膨らませ唇を尖らせるが、
どこ吹く風とチェレンはそれを受け流し、今度は自分の番だと改めて口を開く。


「ぼくのオノノクスが最近『げきりん』を覚えたんだ。
彼はオノンドの頃まではやんちゃだったけど、今は落ち着いた性格に変わったよ。
まあ、彼は元々まじめで、ぼくととても気が合うやつでさ……おまけに努力家なんだ。」


それにさすがはドラゴンタイプだね、とチェレンはメガネを中指で押し上げて意味深に言葉を続ける。

目を伏せて静かに口角を上げて語るその表情からは得意げな色が滲んでおり、自分のポケモンのことを誇りに思っていることがありありと窺えた。


「通常ドラゴンポケモンは進化するレベルが遅い方なのだけれど、
彼の努力とバトルに対する真摯な姿勢のおかげか、進化まで時間はそうかからなかったよ。」

「それはチェレンの頑張りのおかげでもあると思うなあ。」

「べ、ベル、ぼくはそんな……。」


おべっかでも何でもなく、本当に思ったままを素直に口にした様子でベルが尊敬の念を込めた感想を一言零せば、
彼女に好意を抱いているチェレンはたちまち頬を薄く染め上げる。

それを変わらず笑顔で眺めるトウヤの形容し難いオーラを感じ取ったトウカはそっと視線をそらした。

その先で真っ赤なルビーと目が合う。

トウカの手に持っているカップケーキが欲しいらしい、彼女のパートナーのミルフィーユはその気持ちを瞳に込めてトウカを見つめた。
トウカが躊躇なくそれを与えれば、長い尻尾の先の葉が小刻みに震えて歓喜を表す。


「トウカちゃんの方は?ポケモンたちとどんな感じ?」


ニッコリ、ミントの香りを醸し出すような笑顔でトウカへ話を振るトウヤからは、先程までのマイナスな雰囲気は見当たらない。

切り返しが上手いのか、表情を隠すのが上手いのか、
とにかく彼なりの自己防衛には触れずにトウカは自分の手持ちたちについてを話し始める。


「シフォンが新しくゲットしたロコンのトルテをとても可愛がっているの。
トルテもよくシフォンに懐いているし、見ていて微笑ましいわ。
それにトルテが明るいコだから、シフォンも自然と以前よりずっとみんなの輪に溶け込み始めて……おかげで彼の新しい一面を知ることが出来たの。」


あのひねくれ者が何かを目に見えて大事に扱うなんて意外だったとトウカは語る。
横でミルフィーユが、もぐもぐカップケーキを頬に詰めたまま長い首を二回縦に振る。
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